アセアン諸国で勢いづく日本食レストラン No.3

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日本食文化は今やブームから定着の段階、味の良さ、安全・安心に高評価


日本食レストランに携わる外食関係者の話を総合すると、ASEAN諸国への日本食レストランの積極進出に弾みが就き、かつ勢いが出てきたのは、ビジネスチャンスが多く、儲かりそうだ、という経営判断があるからだが、同時に、以前と違って、ASEANでは日本食文化への高い評価が背景にあるのは、言うまでもないことだ。

とくに日本食の味のよさ、使う野菜や畜産物、水産物の食材を吟味した品質のよさ、安全・安心であること、それにおもてなしサービスのよさが評価を受けている。このため、日本食レストランがよほどのおかしな経営をしない限り、確実に、現地で経営基盤を確立できる、という期待値の高まりがあるのは、進出する企業にとっては強み部分だ。

それだけでない。すでに申し上げたとおり、ASEANでは経済成長に伴う都市化で新ライフスタイル願望が強まっている。食生活面でも日本食のよさが、豊かな食生活ニーズ、さらには高品質ニーズの高まりと合致したと言っていい。それらが総合的な付加価値となり、日本食はブームの域を越えて、消費者に必須のものという形で定着しつつある。

1970年大阪万博時と同じ、中間所得層のライフスタイル願望が新消費を誘発


この新ライフスタイル願望に関しては、こうも言える。ASEAN地域の光景が、1970年の大阪万博の時によく似ていると私は思った。当時、日本では東京オリンピックの高揚感がそのまま大阪万博につながり、中間所得層を中心に、多くの人たちがテレビ、冷蔵庫、洗濯機の「3種の神器」と言われた家電製品を買い求め、新ライフスタイルへの夢を膨らませた。そして大量生産・大量消費の高度成長経済に入った。メコン経済圏諸国はまだ、その入り口の所という感じだが、新ライフスタイルへの願望が随所にある。その1つが豊かな食生活への動きだ。

その際、メコン経済圏諸国の都市部で進みつつある都市化が、今度は経済圏全体に急ピッチで波及する。食生活の高度化ニーズに弾みがつき、農畜産物や水産物、さらには加工した食品へのニーズが一気に高まると予想できる。

メコン諸国だけをとっても、各国はそれぞれ課題山積だが、間違いなく経済に活気がある。とくに経済成長に伴って都市化が急速に進み、新たなライフスタイルへの願望が急速に強まり、それが起爆剤になってさまざまな消費需要が起こり、経済に弾みがついてきている点は重要ポイントだ。

ASEAN地域統合で経済圏誕生すれば食に高度化ニーズ、問題は供給力確保


日本食レストランの外食企業が先行してアジアに進出し、各国の食の現場で日本食文化の担い手というステータスを作り上げたが、私の問題意識はさらに、その先にある。次は、日本の農業そのものが生産現場へ進出する番だ、という点だ。
具体的に申し上げよう。ASEAN10か国は2015年12月に地域経済統合に踏み出すのは、すでに述べたとおりだが、関税率の撤廃など「経済国境」のカベを取り外せば6億人の人口をベースに巨大な経済圏が出来上がる。その際、メコン経済圏諸国の都市部で進みつつある都市化が、今度は経済圏全体に急ピッチで波及する。食生活の高度化ニーズに弾みがつき、農畜産物や水産物、さらには加工した食品へのニーズが一気に高まると予想できる。
その場合、成熟市場の日本で培った日本の農業生産技術は、こうしたASEANの新しいニーズに対応できる。とくにIT(情報技術)化した生産技術は、日本と対照的な広大な農地でいくらでも活かせることが出来るし、生産性向上にもつなげることが可能だ。

日本は優れた農業生産技術、流通システム持っておりASEANで活用チャンス多い


また高品質農産物の代名詞である安全・安心の農産物づくりに関しても、今後はASEANでビジネスチャンスとなる。おいしさをベースにした「売れる農産物づくり」のためのマーケットリサーチ、さらにはマーケッティングの展開も可能だ。第1次産業の農業者が主導して生産から加工、販売まで主導する6次産業化システムも、ASEANの農業現場に定着させ、事業化を図ることができる。まさに日本農業の出番だと言っていい。

私が今回歩いたメコン経済圏諸国のうち、タイからカンボジア、そしてベトナムに至る国際道路、南部経済回廊の陸路を車で走った際のことを申し上げよう。いずれも農業国なので、見渡す限りの農地だったが、率直に言って、耕作地のほ場整理、つまり土地の区画整理、かんがい排水などの整備がいきわたっているといった状況ではなかった。

また、南部経済回廊を見ても、物流システムが体系化されているとは言い難い状況だ。とくに、都市部に持ち込まれた農産物は、ホーチーミン市やプノンペンで市内のいくつかのマーケットで売買されていたが、消費者への直売所といった感じだった。今後、想定される都市化に伴う大量の農産物、加工食品ニーズなどに対応した農産物流通システムはなかなか期待できなかった。逆に言えば、日本企業にとっては進出チャンスと言える。

リスク嫌がる農業者の背中押すのは、ASEANに意欲的な日本企業?


問題は、日本の農業者に保守的な人たちが多いため、大きなリスクを背負いこんでまでASANには行きたくない、という可能性があり、その人たちの背中をどう押すかだ。私はその役割をASEANでの農業プロジェクト展開に意欲を示す日本企業に期待したい。

いま、日本国内では農業への企業参入や企業の農地保有の動きに対し、農協など既存の農業組織が岩盤のように抵抗している。そのカベ打破につなげる1つの手立てとして、ビジネスチャンスにチャレンジする日本企業がアジアで先進事例をつくればいいのだ。

具体的には、企業が、日本国内で事業欲の旺盛な農業者を探し出して連携し、ASANの農業現場でチャレンジ、そしてその成功体験をベースに日本国内で農協などの岩盤にチャレンジする、というやり方だ。もう1つは、ASEANの現場で農業ビジネスに関心を示す現地企業と連携し、その輪の中に日本の農業生産法人を加えればいいと思う。

中国で農業生産にチャレンジした朝日緑源農業公司の先進モデル事例研究も必要


私は以前、中国の山東省で農業生産プロジェクトを展開するアサヒビール傘下の中国現地法人、朝日緑源農業公司の現場を見た際、いいチャレンジだと思った。こうした日本企業が中国で取り組んだ先進モデル事例を参考に、何が成功部分で、また課題があるとすれば何かを探って、新たにASEANにあてはめればいいのだ。

この朝日緑源農業公司は興味深い事例だ。2003年当時、アサヒビールの瀬戸雄三相談役が山東省トップと話し合い、日本が先端農業技術を駆使して高品質かつ安全性の高い農産物をつくって安全志向が強まっていた中国の消費者ニーズに対応すると同時に、技術移転も図って中国の農業生産の向上につなげる、という目的のためにつくられた。

日本側から住友化学などが共同出資したが、アサヒビールには農業生産技術が十分に備わっていなかったため、いろいろな関係者の協力を仰いだ、と当時聞いた。私自身、残念ながら、その後のフォローアップが出来ていないが、安全志向の強い中国にとって先進モデル事例となったはずだ。ASEANへの農業進出がらみで、事例研究の価値が十分ある。

6次産業化で先駆的な和郷園はタイで現地生産、日本の生産・栽培技術を提供


ASEANへの農業進出事例で、ぜひ申し上げたいのは千葉県の農事組合法人で株式会社和郷園だ。木内博一社長のリーダーシップもあって、市場流通に頼らず、独自の経営感覚を持って生産、加工、販売まですべて手掛ける新農業の担い手だが、海外展開も活発で、2007年にタイにOTENTO THAILANDという現地法人を設立している。

海外展開では先駆的な存在だが、タイの現地法人に関しては日本の農業生産・栽培管理の技術をタイ農業に組み入れ、農薬を使わず安全・安心を売りにしたイチゴやバナナなどの生産を行ってタイ国内で販売すると同時に、シンガポールや日本へ輸出している。今後、ASEANの地域経済統合で域内市場へのビジネスチャンスが増えると思う。

興味深い動きがある。最近、出会った和歌山県の株式会社河鶴という漬物会社の河島伸浩社長が、長野県など国内で新鮮野菜の生産を手掛けてスーパーマーケットなどに供給する新ビジネスの延長線上で、ラオスにLAO KAWATURUという現地法人をつくり、20㌶ほどの農地で品質管理した新鮮野菜の試験栽培を始めた、という。

河島社長によると、市場規模が小さいラオス国内よりもタイやベトナムなどメコン経済圏市場をターゲットに生産、販売のプロジェクトが展開できるようにチャレンジしてみたい、という。マーケットリサーチが必要に思うが、なかなか意欲的なのがうれしい。

渡辺JBIC総裁「農業はアジアで成長産業、農産物は高品質を背景に高価格に」


ASEANに日本農業が進出する場合、野菜価格の安さにしばられるので数量の拡大が見込めないと収益の確保が難しい、という懸念があり得るが、私は、重ねて申し上げれば、ASEANが地域共同体化をきっかけに、地域横断的に農産物流通が進み、とくに高品質の農畜産物、水産物、さらには加工食品などへのニーズが高まれば、着実に、先進モデル事例を持つ日本農業にとってはビジネスチャンスが膨らむ、と思っている。

この点に関して最近、メディアとの昼食講演会でゲストスピーカーとして登場した渡辺博史国際協力銀行(JBIC)総裁が興味深い問題提起をした。渡辺総裁は「これまでアジアでは農産物が生産性の低さと合わせて低価格というイメージが定着していたが、今後は都市化に対応して、中間所得層が着実に増え、その人たちの食へのニーズに沿って高品質イコール高価格の農産物が求められる。当然、農業はやりようによっては成長産業になっていく」というものだ。大いに参考になる考えだ。

私は、ASEANの経済成長に弾みがつけば、人口増をまかなう食料確保が重要になり食料の安全保障論が出てくる。その時に、日本企業が、日本農業が生産力拡大に貢献すれば、日本の存在感がASEANで飛躍的に上がると思う。同時に、日本の外食企業にとっても、日本食文化への評価が高いだけに、ビジネスチャンスは一層高まる、と言いたい。

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寄稿者:牧野 義司 氏(経済ジャーナリスト、メディアオフィス「時代刺激人」代表)