米国のレストランなど外食企業が会員となる全米レストラン協会(NRA)主催の恒例のNRAショーが2014年5月17日~20日までの4日間、シカゴのマコーミック・プレースで開催された。日本からはNPO法人日本食レストラン海外普及推進機構(JRO)関係企業16社が積極的に参加し、「UMAMI(うまみ)」という名前の日本パビリオンで日本食文化をアピールした。
このNRAショーは、今年で実に96回開催となる全米最大かつ伝統ある食関連見本市だ。主催者側によると、今回、世界30か国から2170社が出展した。会場となったシカゴのマコーミック・プレースの約5万6900平方㍍という広大なスペースには、おひざ元の米国のレストラン企業はじめ、シェフ、食材のバイヤー、食品流通などの食品関連企業、関係者だけでなく、日本を含めた世界中の食に関する企業やその関係者も参加、さまざまの趣向をこらして存在感を強調した。
全米最大の食関連見本市ということもあって、同じく主催者側の発表では116か国から6万3876人の人たちが集まり、来場登録した、という。
今回のNRAショーで、プロバスケットのスター選手、マジック・ジョンソン氏がキーノートスピーチを行った。それ自体に極めて話題性があったが、このジョンソン氏が突然、「みなさんに紹介したい人がいる」と、史上最高のバスケットプレイヤー神様マイケルジョーダン氏を舞台に引き出して、会場を盛り上げた。プロスポーツと食の見本市のつながりはないように見えるが、米国独特の場を沸かす演出の巧みさがあった。
NRAはこの4日間で、さまざまなプログラムを展開した。参加企業がメニュー提案などを行う出展・出店ブース以外に、外食企業向けのイベントとして、いわゆる厨房器具を活用した効率的、機能的なキッチンデザイン、キッチンイノベーションのデモンストレーション、さらには有機栽培の食品を集めたオーガニック・ナチュラル・パビリオンという専門ブースもつくって米国の健康志向ニーズに対応したプログラムも演出した。
興味深かったのは、このNRAショーというビッグイベントが、全米でも指折りの巨大都市シカゴ市全体を巻き込んでしまったことで、ホテルは期間中、全米だけでなく海外からの参加者を収容するため、事実上、貸し切り状態となった。ホテル間、あるいはホテルと会場間を特別に無料のシャトルバスを運行させるほど。言ってみれば、この開催期間中の4日間は、シカゴ市全体がNRAショー一色だった、と言っても言い過ぎでないほどだった。まさにNRAショーの持つすごさを印象付けるものとも言えた。
また、JROなど日本関係者を大いに喜ばせたことがあった。NRAが今回、大会に出展・出店した参加者や関係者、それに一般の人たち向けに発行した展示ブースの案内はじめ、盛りだくさんのイベントやプログラムを書き込んだ大会の公式ガイドブックの表紙に、日本食文化が米国でも認知されたな、と思わせるような写真が出たのだ。具体的には、思わず手にして食べてみたくなるさまざまなスシを並べ、それを前にして米国人シェフが調理ナイフを抜いている写真だ。
写真の構図としては、米国人シェフがスシをにぎっているものではなく、また刺身に包丁のナイフを入れている、といったものでもない。このため、日本人関係者から見ると、ちょっと現実的な構図でないな、という印象を持つ方もおられるかもしれない。
しかしNRAショーの長い歴史の中でも、日本の食にかかわるもの、とくにスシが公式のガイドブックの表紙を大きく飾った、ということは例がない。間違いなく日本食文化が米国社会でしっかりと受け入れられ、根付いてきたという意味で、象徴的な出来事だ、という受け止め方をするのが正しい、と言えそうだ。
というのも、実は、JROなど日本関係者をさらに喜ばせることがあったのだ。それは、このガイドブックに折り込むようにして入っている会場の案内地図(ガイドマップ)の表紙にも黒っぽい箸(はし)2本でスシをはさむようにした写真がアクセントの形で写し出されていたからだ。ガイドブックとワンセットで、日本のスシを浮き彫りにした形だが、誰もが手にする2つの冊子に、日本のスシが目立つ形で取り上げられた、ということは、米国に限らず世界でスシを含めた日本食文化が「市民権」を得たと言える。
この点に関して、NRAショーにこれまで長くかかわったJRO関係者は「日本食のスシが、誰にも目立つ形でパンフレットの表紙、そしてガイドマップの表紙を飾ったことはない。日本食文化を象徴する伝統の和食が、ユネスコの無形文化遺産に登録されたため、NRA大会事務局関係者も、日本食文化に話題性があると見て、スシをテーマにしたのだろう。私たちJROとしても、大会期間中は誇らしい感じがあった」と語っている。
また、別のJRO関係者は「そういえば、今回のNRAショーで際立っていたのは、日本のスシだけでなく、ベトナムのスパイス料理などアジアの食材やメニューが数多く目についた。アジアが食のメインストリームに躍り出てきた、という印象を持つ。これまで欧米中心のメニューだったのが次第に、アジアが世界の経済の成長センターになってきた、ということで、NRAとしても、アジアの食のパワー、消費購買力を積極的に取り込もうという米国らしい発想の結果なのかもしれない」と述べている。
JROは今回を含めて、このNRAショーには、7年連続で出展・出店参加している。
これまで米国ではニューヨークなど全米各地で、食のイベントという形でレストランなど外食関係者向けのさまざまなイベント、ショーが開催されているが、このNRAショーの場合、参加企業の多さといったスケールの大きさという点からだけでなく、毎回、新たなメニュー提案、それに連動する商品が出される。
とくに技術の粋を極めて、さまざまな食材の特質を巧みに活かしたメニュー提案には時代の先を見据えた提案もある。このため、食のトレンドを探るには絶好のチャンスとなる。
自動車のモーターショーが、世界の自動車メーカーにとって、その年に新たに売り出すニューモデルカーをアピールする場になり、ライバル企業にとっても重要な場であると同時に、ドライバーの消費者にとってもわくわくするショーとなるのとまったく同じだ。現に、NRAショーも自動車モーターショーと同じように、新メニューに加えて、さまざまな新機軸を打ち出した食品、食材の披露も行われるため、食にかかわる企業関係者らは見逃せないものとなっている。
NRA SHOW 2014 JAPAN Pavilion Umami
寄稿者:牧野 義司 氏(経済ジャーナリスト、メディアオフィス「時代刺激人」代表)