アセアン諸国で勢いづく日本食レストラン No.2

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ミャンマーはASEANのニューフロンティア、インフラ整備課題あるが、経済に勢い


次はミャンマーだ。ASEANのニューフロンティアと言われるほどで、現在のティン・セイン政権が改革開放政策にかじ取りを切り替えてから、日本を含めた欧米諸国が積極的に接近したため、政治、経済、社会面で課題山積ながら、経済に勢いが出てきている。

私は、ミャンマーでは旧首都のヤンゴン(旧ラングーン)しか見ていないので、全体状況をレポートできないが、ことヤンゴンに関しては、プノンペンと同様、新しいものと古いものとが混在している。しかし経済には間違いなく勢いがあり、水、電力などのインフラ設備が追いつかず、とくに電力供給に関して、需要ピーク時の5、6月ごろは供給に問題を抱え、たびたび停電に見舞われるため、企業を中心に経済活動に影響が大きく影響が出る、という状況に至っている。

ヤンゴンには老舗の日本食店の一方で、富裕層狙いの高級焼き鳥レストランも


さて、本題の日本食レストランに関しては、他のメコン諸国の主要都市と同様、日本食ブームで、さまざまなタイプの日本食レストランが需要を見込んで出店を進めている。その中で、老舗の日本食レストランの「FURUSATO」が日本人社会では根強い人気があるというので、行ってみた。1985年に立ち上げというだけあって、店のたたずまいだけでなく、店内、随所に古風な感じを残しているが、メニューや味に関しては、日本に戻ったような感じで、なつかしい味も多く、合格レベルだった。

他方、最近4月にオープンしたばかりの富裕層、中間所得層の上、つまりアッパーミドル層をターゲットにした焼き鳥など鶏料理の「てけてけ」が日本国内の民放テレビで紹介されていたので、補足取材結果を交えて、取り上げてみよう。

この店は、東京を中心に首都圏で店舗展開するユナイテッド&コレクティブ ( 本社東京 ) がミャンマー市場でのビジネスチャンスを見込んで、ヤンゴン市内に初出店したものだが、現時点で手応えあり、ということで、今年中にヤンゴン市内に追加で3店舗を出す計画という。

ビジネスモデルは、白黒のモノトーンの店の内装で、高所得層をターゲットにし、ゆったりとしたスペースで時間をかけて焼き鳥など鶏料理を食べてもらうこと、このため、店舗もヤンゴン市内の高級住宅街に立地し駐車場スペースもゆったりととること、メニュー開発も行い、客単価も高めの設定にしたこと、また食材の鶏肉や野菜に関しては現地調達を基本にするが、日本人の店長、料理長が教育訓練を徹底し、安全・安心の品質管理にもこだわったものにする、という。課題は高所得層をどこまで確保できるかだ。

バンコクは日本食レストランの牙城、JRO支部加盟700社の10倍企業が参入


さて、次は日本食レストランが集中的に店舗展開するタイのバンコクを取り上げよう。JROバンコク支部長で、モスフード・タイ代表取締役会長の浅井靖 綏氏によると、2014年5月末現在、JRO バンコク支部に会員登録している日本食レストラン企業の数は約800社で、2000店の出店数にのぼる。この数1つをとっても、バンコクの日本食レストランはASEANでも突出したもの、だと言っていい。

浅井氏は「日本食がおいしいのみならず、日本食レストランの食材の安全・安心度の高さ、品質管理のよさ、店舗でのおもてなしサービスの素晴らしさが他の国々の料理に比べて群を抜いていることが大きな評価になっている。それが日本食文化の素晴らしさという評価にもつながっている。JROバンコク支部としては、会員企業の品質管理力に磨きをかけ、逆に品質面で問題を引き起こさないように細心の注意を払っている。まだまだ現場で課題山積だが、日本のソフトパワーのすごさという評価につながるように、がんばっていきたい」と述べている。頼もしい限りだ。

浅井氏によると、バンコクで日本食レストランがいかに現地社会に溶け込んでいるかを示す1つの事例として、タイの外来語に日本食のメニューや食生活絡みでの言葉がおびただしいほどにある、という。
ちなみにトンカツ、ラーメン、テンプラ、スシ、サシミ、タコヤキ、ギョーザ、ヤキニク、サバ、マグロ、マッチャ(抹茶)、サケ、そして「オイシイ」などだ。しかも浅井氏の話ではタイの外来語のうち、日本語がベースになっているのは、食品関係が圧倒的に多く実に70%に及ぶというから驚きだ。

中心部デパート型ショッピングセンターに日本食レストラン専門店が数多く出店


バンコク中心部、東京の銀座のような地域にタイの大手企業、セントラルグループが経営するデパートタイプのショッピングセンターがある。シャネルやグッチ、エルメスなど欧州の有名ブランド品店が入っているが、そのビルのレストラン街には日本食レストランが数多く出店している。地下の食品スーパー街にも並んでファーストフード的な外食店が出ている。

このうちショッピングセンターのレストラン街の日本食レストランの際立った特徴は、いわゆる何でもありの日本食メニューのレストランとは違って寿司屋、ラーメン店、ハンバーガーチェーン店、蕎麦屋、とんかつ店、てんぷら屋、どんぶりもの店など、いわゆる特定のメニューにしぼった専門店が店を構えている。それらの店先に行くと、日本にいると錯覚してしまうほど、日本とほとんど変わらない店舗展開、メニューとなっている。

日本食レストラン「FUJI」はタイ中間所得層をターゲットにしたメニューや価格設定


ただ、これらの専門店タイプとは対照的に、あらゆる日本食メニューを売り物にして店舗展開しているのが、日本食レストラン「FUJI」だ。まさにとんかつ、てんぷら、刺身、寿司、そば、うどんなど単品メニューの他に、定食スタイル、盛りだくさんの食べ物を盛り付けた弁当タイプのものまである。
日本企業の経営だが、「FUJI」のビジネスモデルは、駐在員や観光客を含めて日本人をターゲットにせず、タイ人のサラリーマンやオフィスレディ(OL)ら中間所得層に絞り込み、「リーズナブルな値段で味のいい日本食」を売り物にしている。

私も繁華街のビルの一角にある「FUJI」で弁当タイプの日本食を食べたが、味も悪くないし、値段も確かにリーズナブルで満足度はGOODの部類だった。すでにミャンマーのヤンゴン市内にも出店している、という。顧客のターゲットをタイやミャンマーの人たちに絞り込み、しかも品質管理も徹底してやっているのを見ると、日本食ブームのすそ野を広げる役割を果たしているな、といった感じだ。

タイの日本食レストランの経営形態は4種類、フランチャイズ契約店などに課題


JROバンコク支部の浅井支部長によると、日本食レストランは4つの経営形態がある。具体的には、1)日本企業とタイ企業の合弁経営、2)タイ資本が日本食ブームに乗って日本企業とフランチャイズ店契約を結び、日本食レストラン経営を行う、3)日本企業が単独の独立資本で店舗経営、そして4)タイ企業が同じく日本食ブームに便乗し独自の日本契約を結んで日本食レストランを経営するやり方だ。

このうち、1)と3)のタイプは、日本人がフルにかかわるので、日本食の伝統が維持され、問題を生じないが、2)の場合、日本企業がフランチャイズ店契約に沿って、日本食の味を出すための調理面での指導、さらに経営指導などを行うが、3か月たつと、日本企業側が指導を終えて帰国してしまう。その途端、日本食の味が落ちて、場合によっては評判を落としかねない。

また、4)のケースに関しては、私が実際に経験したことだが、タイ人経営の比較的有名な日本食レストランでお酒の焼酎を注文した際、日本酒と同じように、徳利に入った焼酎とおちょこが出された。日本食ブームに乗って、見よう見真似の食事スタイルで臨むため、笑うに笑えない事態が起きてしまうのだ。

食材は日本からの輸入は割高、現地調達かASEAN域内関税活用し周辺国輸入


また、浅井氏によると、バンコクの日本食レストランの食材の調達にはさまざまな課題がある、という。日本食レストランは、日本食の味にこだわる場合、日本から空路や船便で食材をタイに輸入するのが理想だが、輸入コストや検疫手続きなど、経営面でとても採算が取れる状況でないため、大半の食材に関しては、現地調達にしている、という。
ただ、牛肉に関しては、豪州、ニュージーランドから輸入、また豚肉や鶏肉に関しては、ほとんどがタイで現地調達、魚はまちまちで、寿司ネタに関しては日本から輸入するものもあるが、大半はコストとの見合いで他の外国産のものを調達するという。

しょう油など調味料は、日本から輸入するよりも、ASEANの域内関税を活用する方が合理的だし、コスト面でも安いのでそうするが、とくにしょう油などに関しては、シンガポールから輸入する、という。野菜はタイ国内の生産物を現地調達する。またコメに関しては、種もみで日本から持ち込んだササニシキなどの銘柄米のタネをタイ国内などで現地生産する。地域によっては、日本と違って二毛作、三毛作が可能で、出来上がったコメの価格は日本の10分の1の価格で済む、という話だった。

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寄稿者:牧野 義司 氏(経済ジャーナリスト、メディアオフィス「時代刺激人」代表)