サンパウロ日本食シンポジウム レポート

一覧へ

ブラジル・サンパウロにJRO 22か所目の支部が誕生

ネットワーク化記念の日本食シンポジウムは大好評


「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録され、日本食文化が世界的に評価を受ける中で、特定非営利活動法人(NPO)日本食レストラン海外普及推進機構(JRO)に、ブラジルのサンパウロが 22 か所目の JRO 支部として、新たに加わった。

2014年9月19日、サンパウロの BLUE TREE PREMIUM FARIA LIMA で、ブラジルの日本食レストランやフードサービス企業関係者、さらに卸・食品メーカー、メディアなどを対象に、 JRO 主催の支部ネットワーク誕生を記念した日本食シンポジウムが開催された。その際、同時に、日本食メニュー提案会も行われた。当日は地元関係者が150人も参加、また JRO からは加藤一隆専務理事、青井倫一理事(明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科長、慶応義塾大学名誉教授)、それに日本の農林水産省水産庁の新井ゆたか漁政課長が参加した。

「ブラジルにおける日本食と日本食材」がシンポジウムのテーマ


このうち、最大のイベントは「ブラジルにおける日本食と日本食材について」というテーマで開催されたシンポジウムだ。

JRO の加藤専務理事が冒頭、「 JRO は世界に日本食の魅力を伝えるため、 7年前につくられた NPO 組織です。日本食のマーケットにレストランのシェフの方々や料理学校の先生、さらに日本の食材や食をそれぞれの地域に提供するディストリビューター、食品メーカーなど多くの方々で世界中にネットワークをつくって、日本食のマーケットを深化させ、レベルアップしてきました。今回、サンパウロに、22カ所目の JRO 支部が誕生したことは日本食文化がブラジルで、新たな広がりを見せるきっかけになると期待しております」とあいさつした。

「味のよさ、食べやすさ、種類豊富さが寿司普及のポイント」と新井氏


このあと新井農林水産省漁政課長が「寿司と日本産水産物」と題して基調講演を行った。まず、新井氏は講演で、日本の和食文化の中核を占める寿司が1300年ぐらい前から、コメとさまざまな種類の魚を巧みに使った彩(いろどり)豊かな食べ物として開発され、発展してきた長い歴史を持つ伝統のある食であることを指摘した。

そして、新井氏は、寿司がこれほどまでにポピュラーなものになったのかという点について、まず味の良さ、つまりおいしいものであること、そしてお箸を使っても、また手で食べることも可能と言う、いわば EASY TO EAT という食べやすさがあること、加えて脂肪分が少なくカロリーも高くないといった健康にもいいヘルシー食材であること、またさまざまな魚を活用して種類豊富な寿司が食べられること、さらにレストランでも、あるいはテイクアウトで持ち帰って食べることも可能な、一種の食べ方万能の食べ物であることなどが世界中に拡がったポイントでないかと述べた。

冷凍など輸送技術が進歩しており日本産水産物輸入を、とアピール


また、新井氏は最近、寿司職人が芸術的な手作りで、さまざまな種類の寿司を仕上げるこれまでの伝統的な作り方に加えて、新たに寿司ロボットという形で寿司を機械が自動的に握るシステム、それと同時に回転寿司という、お客の前を動ぐるぐる回るベルトの上に寿司を並べ、お客が好きなものを自由にとって食べるシステムも開発されたこと、これらによって寿司の普及がぐんと進んだことを明らかにした。

最後に、新井氏は「日本とブラジルの間の距離が長い問題があり、寿司の食材である日本産の魚や水産物を生鮮でブラジルに輸出するというのは難しいかもしれない。しかし今は魚の冷凍技術が進歩し、解凍したら鮮度がそのまま維持されることも可能になっている。日本政府は魚の輸出を今後10年間で2倍にする計画でおり、ぜひ日本産の水産物輸入をお願いしたい」とアピールした。

坂倉氏「ブラジル市場はラーメン屋など専門化、居酒屋流行する予感」


続いて行われたシンポジウムには青井理事がモデレーターに、パネリストとして新井氏、ブラジル味の素有限会社常務の坂倉一郎氏、ブラジル郷土料理店 BRASIL A GOST のオーナーシェフ、 MS. ANA LUIZA TRAJANO 、スペイン料理店 RESTAURANTE MIYA の同じくオーナーシェフの MR. FLAVIO MIYAMURA の 4 氏が参加した。

Brasil a GostのMs. Ana Luiza Trajano(左)、
Restaurante MiyaのMr. Flavio Miyamura(右)

ブラジル味の素社の坂倉一郎氏(左)
水産庁の新井ゆたか氏(右)

まず、坂倉氏がブラジルの日本食市場の現状に関して、過去に、あらゆる日本食メニューを展開する総花的な日本食レストランが一般的だったのが、現在では寿司屋、ラーメン屋、牛丼屋といった形で専門食メニューの店舗展開に移行している点が大きな特徴であることを明らかにした。その際、坂倉氏は「日本食をベースにお酒を酌み交わすといった日本独特の居酒屋文化がブラジルで広がっていく予感がする」と述べたのが印象的だった。

ミヤムラ氏「日本食文化の深み部分を反映した独自メニュー開発を」


地元スペイン料理レストランのオーナーシェフ、ミヤムラ氏は、日本食の持つ味の深みなどユニークさが強みであり、ブラジルの食市場で地元の食と WIN/WIN の関係をつくりあげることが可能だと述べると同時に、寿司や刺身などポピュラーで象徴的な日本食だけでなく、日本の食文化が持つ深みの部分を反映した独自メニューを出して行けば存在感をアピールできるのでないか、と述べた。

また、シンポジウムでは、ブラジル消費者の間で今、塩分の取りすぎなどによって健康を害する食生活を問題視する動きが広がっていることが紹介され、これに対応してヘルシーで低カロリー、そして味がいいという日本食のメニューを出して行けば、大きな市場シェアを獲得できるのでないか、という指摘も出た。

「テマケリア」というブラジル独特の手巻き寿司が大人気で、その寿司チェーンも出来ていることがシンポジウムで話題になり、日本の伝統的な寿司とは異なる、いわゆる現地化された食文化はしっかりと地元で定着しているので、その寿司文化を容認せざるを得ないこと、むしろ日本食文化はそれと融合を図ることが必要だ、という意見が出された。

日本食の衛生管理が重要、日本から調理指導者の派遣必要の声も


新井氏は、日本の食文化が世界に大きく広がりを見せている中で、寿司などのように生鮮食材を使う食品には食品衛生上の管理が常に問われてくること、 JRO はそういった日本食の安全管理を世界中で普及啓蒙している重要な NPO なので、行政機関としても評価していることを指摘したあと、今後は日本食を安全に調理し食品管理する調理人を育成することが重要になってくると問題提起した。
この点に関して、青井氏が JRO 理事の立場で、今後はサンパウロの料理学校に日本から調理の専門家を派遣して技術指導など人的交流が必要になる、と述べた。

このあと、シンポジウムは会場からの質問や意見なども出され、パネリストとの活発な意見交換があった。その中にはブラジルにおいて日本食市場が今後、大きな広がりを見せるには日本の伝統的な懐石料理のような、味がいいだけでなく、見た目も美しい豪華な伝統料理の導入が必要だ、といった意見、あるいは本場の中国よりも日本で独自開花した日本型ラーメンをファーストフードの形でブラジル市場に進出することを望むといった声も出た。

日本食メニュー提案会では現地法人含め6社参加し独自食材をアピール


シンポジウム終了後、別の会場で、日本食のメニュー提案会が行われた。味の素やキリン麦酒、それに寿司ロボットメーカーの鈴茂器工、さらにヤマト商事、 ZENDAI の食品卸や藍染の小池信氏が参加し、それぞれ独自メニューの日本食を紹介した。

このうち小池氏は、三重県産豆乳と天然にがりの手作り豆腐、高知県産ゆず風味の寿司酢を使った鮭の漬け押し寿司、レッドロブスターの和風サラダ仕立て・海苔の佃煮などユニークな8品メニューを提案した。また鈴茂器工はブラジルでも珍しい寿司ロボットで寿司80食を提供した。ヤマト商事は海藻サラダや日本酒をアピールした。

ブラジル側参加者はこれら日本食の独自メニューや食材に舌鼓を打った。

ブラジルは、サンパウロ市内だけでも日本食レストランが約730店を数え、ブラジルの地元料理店の約500店を大きく上回るほど、日本食が活況を見せつつある。このため、 JRO にとっては、今回のサンパウロ支部創設は、今後の日本食文化を定着させる、という意味でも極めて有効だった、と言えると加藤専務理事は語っている。

寄稿者:牧野 義司 氏(経済ジャーナリスト、メディアオフィス「時代刺激人」代表)