フランスのスシ外食企業関係者の日本食現場見学

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2015/03/14-21 フランス日本食関係者日本研修より

仏スシチェーン関係者が本場日本の魚介類の豊富さに驚嘆

日本ツアーでスシ職人養成も見学、卸売市場の衛生管理には注文


世界の食のメッカ・フランスでは、スシは日本食文化の中核といった評価が定着していることにとどまらず、外食の現場で人気が極めて高く、フランス人自身がビジネスチャンスと、パリなどでスシチェーンを展開、デリバリーサービスも積極的に行っている。

このため、特定非営利活動法人日本食レストラン海外普及推進機構(JRO)は、スシビジネスにかかわるフランス人の人たちに日本食文化の現場をしっかりと見てもらい、日本のスシの広がりにつなげていこうと、JROのパリ支部と連携して、2015年3月14日から21日までの8日間、日本の本場スシの現場視察のみならず、静岡県焼津の漁港から東京築地卸売市場のセリ、さらに鰹節工場、寿司酢などお酢や醤油の製造工場、さらに冷凍食品の工場の研修見学ツアーを企画した。

パリ中心にEU域内で70店舗をチェーン展開のSushi Shopも参加


この研修ツアーには、パリで7店舗を展開する「Sushi Bar」、それにパリを中心にEU地域で約70店舗のチェーン展開する「Sushi Shop」、フランスの食の専門誌「Sushi」、そして日本食材をフランスにつなげる物流ビジネスを展開する「Foodex」からそれぞれ参加をいただき、総勢11人の研修ツアーとなった。

そこで、フランスのスシビジネスに取り組む外食企業関係者らがこの研修ツアーでどんな点に関心を持ったか、現場同行レポートをしてみよう。
今回の一行の最大の関心事は、言うまでもなく、本場の日本でのスシのネタ調達から始まって、現場でのスシのにぎり方、とくに酢飯のつくり方、マグロなどスシネタの魚のさばき方、お客への振る舞いなどおもてなしサービス、さらにスシ職人の人材育成など教育手法や研修システムなどだった。

まず一行は、来日後の3月15日、東京都内の食品スーパーや飲食店、百貨店のデパ地下などを視察し、株式会社人形町今半において和牛の勉強会に臨んだ。和牛の生産・流通・メニュー開発についての講義を受けたあと、すき焼きや鉄板焼きによる試食を行った。
和牛肉は、すでにEU(欧州共同体)諸国に輸出が再開されているので、大半の人たちがよく知っている。今回提供された和牛は北海道産であったが、「欧州で手に入るモノよりも品質が高い」「フランスでも十分に通用する」といった評価だった。

仏のスシネタは80%サーモン、15%マグロのため「学ぶこと多い」との声


さて、一行にとって最大の関心事だったスシツアーが翌日3月16日から始まった。この日は、早朝午前4時45分に築地中央卸売市場に行き、スシネタのもとになる魚など水産物の物流管理の現場を見学した。彼らが、もっとも驚いたのは、取り扱う水産物の種類の豊富さと鮮度の高さだった。

現に、「欧州は漁業が活発なので、魚の種類は豊富だが、この築地市場に日本周辺のみならず海外からも集まって取引される魚の数の多さは驚きだ。欧州の比ではない」「魚食国の日本だから、いろいろなものを食べてみたい、ということで、各地から集荷される魚も多いのだろうが、種類がケタ外れだ。スシはじめ、魚を焼いたり煮たりして食べる日本の食文化の背景がよくわかった」といった受け止め方だった。

一行のスシバー関係者によると、フランスのスシネタは、80%が北欧のサーモンを使い、残り15%がお客に人気のマグロ、あと5%がその他の魚ということで、圧倒的にサーモンをベースにしたスシだという。このため、今回の築地中央卸売市場で取引される魚の多さに驚くと同時に、スシネタの豊富さで学ぶことが多い、との反応だった。

また、フランスでは水槽に入っている活きたままの魚はほとんど流通していないため、現場で一行は足を止め、じっと見入る光景が目立った。

EU安全基準HACCPがらみでフロアのマグロを引きずる光景に批判的


ただ、問題は、冷凍マグロなどのセリ風景だった。EUはかねてから食品の製造・加工工程での安全基準HACCPのルール厳守をEUに輸出する国々に求めている。そのからみで、EU当局は、かねてから築地市場のフロアで冷凍マグロを引きずってセリ現場に持ち込み、セリを行うことが不衛生だと批判していた。今回の研修ツアーで、一行は、その点に関心を持っていて、冷凍マグロのセリの現場を実際に見て「これは、HACCP基準に抵触するな」と疑問を呈した。

この冷凍マグロ以外は、パレットに魚を並べてセリをしたり、また発砲スチロールの中に魚を入れているので、日本側の市場関係者からすれば、衛生管理は問題ないはず、との立場だが、HACCPに基づいて、安全管理に厳格さを求めることが日常化しているフランスの外食関係者からすると、まだ、ふっきれない感じだった。

このあと一行は、株式会社喜代村において寿司職人の養成システムや店舗運営システムについて講義を受けた。この講義では、フランスの現場でも寿司職人の養成問題に直面しているためか、積極的な質疑応答があった。

中でも、Sushi Shopの購買部長であるFrederic Avanianさんらは、スシネタの魚のさばき方などに関しては、日ごろから勉強しているのでよく知っていたが、彼らが関心を示したのは、スシ職人の養成や研修システムだった。

「われわれフランスでは研修にはあまり時間をかけないので、喜代村が2年間もの研修期間を設けているのは驚きだ。とても勉強になった」と述べていた。

日本のスシ外食企業で2年間、5段階の職人研修システム導入に驚く


このあと、一行は株式会社ミツカン栃木工場に行き、酢の歴史や製造工程、さらに寿司酢などのテースティング、さらにミツカン独自の酢を使ったメニュー提案を見学し、午前の喜代村に続き、午後もスシの関係企業の現場見学を行った。

その1つが、がってん寿司などをチェーン展開する株式会社アールディーシーにおける日本の回転寿司に関する見学だった。まず、日本における回転寿司市場の現状、そして人材教育システム、それにアールディーシー独自のメニュ―開発などの説明を受けた。

ここでも彼らは人材教育システムに強い関心を示した。アールディーシー側は冒頭、がってん寿司の国内、そして海外での展開状況を説明したあと、関心事の回転スシ現場に携わるスタッフの教育研修システムや、衛生管理システムを紹介した。

それによると、アールディーシーの社内研修プランは5段階に分かれており、見学させてもらった初級では、握り寿司のシャリ玉を正確に早く作る実技訓練を行っており、細かな調理のポイントについて一人一人指導を受けていた。初級から始まって最終5段階目まで、実技や論理、経理やマネジメントまで、店舗運営に必要な要素を網羅するきめ細かい研修プログラムを確立している様子に、大変関心を持っていた。

「職人研修は有給なのか無給なのか、有料システムか」など質問集中


Sushi ShopのFrederic Avanianさんは、「研修中は、職人らスタッフへの給料は有給なのか、それとも就業前ということで無給なのか、あるいはまた、有料研修なのか」など盛んに質問していた。アールディーシーではこれらの研修は社員教育の一環であり、研修自体は当然無料で、研修を受ける事は業務の一部だと説明した。

なお、ミツカン栃木工場では酢に関して色々説明したが、酢飯のお酢は外食企業のニーズに対応して、それぞれ個別各社向けの寿司酢等調味料を製造しており、強い関心を示していたことは言うまでもない。これとは別に、彼らは、ミツカン側が披露した「飲む酢」に関心を示し、「フランスの消費者はポリフェノールなど健康にいい食材には関心を持っており、飲む酢といった形での商品開発は面白い」と述べていた。

味の素冷凍食品やキッコーマンのしょう油工場なども見学


3月17日は、味の素冷凍食品株式会社の関東工場を訪問し、主力の冷凍ギョーザ、さらにデザートの冷凍スイーツなどの製造工程を見学した。とくに、冷凍状態にしたアイスクリームなどスイーツには強い関心を示し、スシのデリバリーサービスでうまく活用できないか、アイスクリームの温度管理はどれぐらいまで大丈夫かなどと質問する光景も見られた。

このあと、一行はキッコーマン株式会社の野田工場にある「もの知りしょうゆ館」で醤油の歴史と製造工程などに関して、フランス語でのビデオ解説を見たあと、現場で担当者から説明を受けた。醤油自体に関しては、一行は熟知しているが、その製造工程などに関しては、初めて知ることも多かったようで、担当者に、かなり突っ込んだ質問を行った。

静岡の焼津では魚の水揚げ、鰹節工場も見学


3月18日は、スシ外食ビジネスにかかわる一行にとっての、もう1つの関心事の魚の水揚げ現場や食材の鰹節の製造工程の見学だ。このうち、株式会社いちまるがある静岡県焼津市の漁港での水揚げは、残念ながら、見学日は水揚げ量が多くなかったので、豪快な水揚げ風景を見るには至らなかった。ただ、彼らは、魚の取扱い状況についてHACCPがらみで食品の安全衛生に関してはやや不満そうな感じだった。

株式会社新丸正の鰹節工場を見学した際も、鰹節製造工程の見学、さらに一行が関心を持つEU HACCPに関して、新丸正側がすでに取得し、基準にもとづいた形での食品管理を行っていることの説明を受けた。

ただ、EUは、鰹節の製造に関して、カツオ自体の原産地証明を義務付けて厳しくチェックするほど、安全管理を重視しており、彼ら一行は、新丸正がEU HACCPを取得しているとはいえ、厳しい視線を見せていた。

京都で京懐石料理、器のしつらえやおもてなしサービスも学ぶ


一行は、このあと京都に移動し、株式会社美濃吉で日本料理と京懐石についての講義を受け、日本料理の基本やメニュー構成について学んだ。また料理だけでなく、建物や器などのしつらえやサービスなどのおもてなし、そして日本食文化全般について学んだ。

翌3月19日には、西川貞三郎商店において清水焼きについて講義を受け、日本の器について学び、窯元を訪問し実際にロクロを回して器を製造している現場を見学し、職人から直接、話しを聞いた。職人の繊細な手仕事と技術の高さに一同驚き、製法やこだわりなどについて数多くの突っ込んだ質問をしていた。

また、京料理と器の関係について学ぶため、はり清において器の見方と楽しみ方、器と料理の関係、店舗における管理等について講義を受けた。その際、特に料亭においては、器を決めてからメニューを決める事が一般的である、という説明に対しては、ほぼ全員が「初めに食器などの器ありきで、それに合った料理をあとで準備するというのは驚きだ」という受け止め方だった。当然のことながら、一行の好奇心も高まって、活発に意見交換を行っていた。

仏ツアーチームは「見ること出来ない現場を研修出来た」と大喜び


最後に寿司の原点として、がんこフードサービス株式会社において「なれ寿司」「押し寿司」についての講義を受け、寿司の調理技術的なポイントや衛生管理に関して学んだ。関西でポピュラーな押し寿司として、鯖寿司と穴子寿司の実演をし、試食させてもらった。また、調理技術と衛生管理に関しては、実際に魚を下ろす実演をしながら立ち位置や食材の持ち方、調理器具の使い方等について、押さえるべきポイントなどの説明を受けた。

今回の研修では、日本の寿司業界の視察と寿司に関係する食材について深く学ぶ事ができ、参加者からは普通は見られない各社の取り組みを直接見聞きする事ができ、勉強になったと感謝していた。

寄稿者:牧野 義司 氏(経済ジャーナリスト、メディアオフィス「時代刺激人」代表)