ミラノ万博・JFコンソーシアムが本格スタート!

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2015/05/01 ミラノ万博より

ミラノ万博・JFコンソーシアムが本格スタート、日本食をアピール

フードコートなどに1日平均1300人、関心度高く来客数は上昇傾向


「地球に食料を、生命にエネルギーを」という「食」をテーマにしたイタリアのミラノ万博(国際博覧会)が2015年5月1日にスタートした。
世界中から約150か国・地域が参加し10月末の閉幕までの184日間にわたって、各国がさまざまな「食」をアピールする。参加国のうち、54か国が独自の展示館を開催したが、日本政府も「日本館」で日本食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことを「強み」にして、日本食に関するさまざまなプロジェクトを本格始動させた。

日本食文化アピールの絶好のチャンスと、日本フードサービス協会(JF)会員企業7社は日本政府の協力要請に応じ、JFコンソーシアムをつくって参加、また特定非営利活動法人日本食レストラン海外普及推進機構(JRO)もJFコンソーシアムの日本食レストラン事業を積極サポートする形で協力している。

参加各社は、半年以上の準備対応にもかかわらず、イタリア当局の規制ルールへの対応などに追われ、ギリギリまで苦しんだが、万博開幕と同時に、来店する各国の人たちに連日、日本食のよさ、とくにしょうゆ、みりんなどを使った「うまみ」調味料によって日本食の持つ独特の風味を出したり、日本食文化の持つおもてなしサービスなどのアピールに必死で取り組み、評価を得つつある。

スタートから現在まで「日本館」には1日平均4、5000人が来場、このうちフードコートなどの日本食レストランには1300人ぐらいが行列をつくって順番を待ちながら日本食を味わう形をとっている。「日本館」がユネスコの無形文化遺産に登録された日本食を強くアピールしていることもあって、現地イタリアの国民だけでなく、万博会場への外国人観光客の日本食に対する関心度が高く、フードコートなどへの来店者数が着実に増える動きにある。

JFコンソーシアム7社は日本食レストランとフードコートの2カ所で連携


今回のJFコンソーシアムは壱番屋、柿安本店、サガミチェーン、人形町今半、美濃吉、モスフードサービス、吉野家ホールディングス(京樽)の7社。日本食レストランと日本フードコートの2か所で互いに連携している。

このうち日本食レストランでは美濃吉が京都風のカウンター会席20席で懐石料理を5月から10月末までの会期をフルに使って展開。またフードコートJapan Star Dining(160席)では、残る6社が共同運営で、4グループに分かれて独自に現代版の日本食を提案している。

フードコートは、A(一汁三菜、日本酒、抹茶)グループに柿安本店、人形町今半2社、B(弁当、テイクアウト、抹茶)グループにモスフードサービス、吉野家ホールディングス(京樽)、Cグループ(麺類)にサガミチェーン、Dグループ(カレー)に壱番屋と分かれている。A、Bグループは柿安本店とモスフードサービスがそれぞれ会期中の前半3か月、また人形町今半、吉野家ホールディングス(京樽)が後半3か月をカバーする。

美濃吉が日本食レストランで伝統的な和食メニューの京懐石については「昼懐石(全7品目)」「特別京懐石(全9品目)」などの4メニュー、6社が連携するフードコートでは人形町今半が「黒毛和牛すきやき弁当」、柿安が「和牛すき焼きご膳」、モスフードサービスが「焼肉ライスバーガーセット」、吉野家ホールディングス(京樽)が「江戸前鮨とロール鮨」、サガミチェーンが「天ざるそば」、壱番屋が「とんかつカレー」の各メニューで腕を競う形となった。

イタリア当局規制問題で日本企業が数々の試練体験、今後への教訓


ただ、JFコンソーシアムの日本食プロジェクトは、幸先よいスタートを切ったものの、万博開幕直前まで、イタリア独自の規制ルールや慣行、さらにイタリアを含めた欧州連合(EU)の域内食品安全性確保のための厳しい独自ルールに苦しむ、という問題があった。
ミラノ万博は、まだスタートしたばかりで、今後にどんな試練が待ち受けているか、定かではないが、スタートまでの準備対応で日本企業が味わった体験は、今後にさまざまな課題を残した面は否定できない。

プロジェクトにかかわった複数の関係者の話をもとに、いくつか具体例を申し上げよう。
まず、開幕直前の4月末にイタリア当局はテロなどの治安対策に異常に神経質になり、その影響を受けて、万博会場内のJFコンソーシアム向けに日本から輸送した器材、食材などの搬入に「待った」がかった。日本だけでなく他の国々も同じような状況に直面したが、JFコンソーシアムの場合、物資の搬入がやっと認められたのが万博開幕直前の4月29日だった。搬入で器材などがそろったのを受けて、本番に向けて「ロールプレー」、いわゆる予行演習をギリギリの段階で行わざるを得ないてんてこ舞いの状況だった、という。
イタリアにとどまらずEUにはイスラム諸国からの難民問題だけでなく、テロリスクの問題が常に存在するため、今回の万博開催直前のイタリア当局の治安対応によるリスクは一過性の問題でない、という意味で教訓になる。

「日本からの食材は政府指定倉庫へ搬入」義務付けで予期せぬトラブル


イタリア政府のミラノ万博会場への器材や食材などの搬入規制をめぐっても、JFコンソーシアム企業は対応にかなり苦しんだ。イタリア政府は、地元企業優先の方針もあって、指定のイタリアの物流業者にしか物資の取り扱いを認めないばかりか、政府指定の物流倉庫しか使わせないためで、JFコンソーシアム企業はルールに従って、対応せざるを得なかった。

ところが、日本から船でミラノ万博用に輸送してきた日本の物流関係企業が、イタリアのジェノバ港に到着後、規制ルールに従って指定の物流倉庫に搬入するため、イタリア側指定業者にバトンタッチするが、このあと、予期せざる問題が発生したりした。JFコンソーシアム企業が指定倉庫に食材など物資、器材を受け取りに行くと、荷物の中身に「欠品」が生じていたのだ。

要は、荷物からこっそり食材や器材の抜き取りが行われた結果なのだ。とくに食材は横流しも可能と見たのか、中途半端な数量でなかった。日本側関係者は「ミラノ万博直前の出来事で、それら食材がないとメニューが完成しないので、やむを得ずミラノ市内のスーパーなどに買い付けに行かざるを得なかった」という。不満をぶつけようにも、ミラノ博開幕前で、日本側関係者も分刻みでの時間との勝負だったため、イタリア政府やミラノ万博公社と張り合っている余裕がなく、悔しい思いをしたことは間違いない。

「ミラノ特別区物資」カツオブシでもルール厳守のイタリア当局とトラブル


しかしJFコンソーシアムの日本企業担当者にとって、さらに問題が起きたのは、保管倉庫に日本から輸送して搬入した食材、とくにカツオブシの取り扱い問題だった。

カツオブシに関しては、イタリア政府は、EUの食品安全基準のHACCPルールに抵触する恐れがあるとし、安全性確保のために原産地証明が必要というだけでなく、HACCP基準に合致した専用船で水揚げし、水揚げ後も基準を満たした専用工場で加工することが義務付ける厳しさだった。

日本企業側にとっては、カツオブシは、和食調理の生命線の部分であるため、このルールにかなり抵抗、最終的に、イタリア政府、ミラノ万博公社、日本政府との話し合いによって、ミラノ万博期間中、万博会場でのみ使うことを条件に輸入を認める、という「ミラノ万博特区」扱いにすることで決着がついた。

ところが、イタリア政府は、指定倉庫に搬入したカツオブシに関して、仮に、イタリア業者の横流し目的の抜き取りなどで外部流出し安全性などの面で問題が生じた場合のリスクに備えて、250キロ分のカツオブシをわずか1回でJFコンソーシアムの日本企業の冷蔵庫などに入れるように対応せよ、と異例の指示を出したため、これがまた、トラブルになった。
JFコンソーシアムの日本企業側は、フードコートなどの冷蔵庫の容量が大きくなく、必要に応じて、指定倉庫から取り出すやり方を希望した。しかしイタリア政府は、カツオブシが安全性の面でEUのHACCPルールに抵触する物資のため、「特区内で例外扱いした物資とはいえ、安全確保ルールはルール」と応じてくれなかった。結果的に、日本企業側は、カツオブシ用の別の冷蔵庫の確保を余儀なくされるなど、ミラノ博開幕直前まで、厳しい負担対応を強いられた、という。

動物性由来かどうかで厳しい検疫チェック、HACCP対応で今後に教訓


このカツオブシに限らず、他の食材に関しても、輸入時の検疫段階で、動物性由来かどうかなど、厳しいチェックが行われたため、日本側関係者は、カツオブシの時と同様、いろいろ説明に追われる有様だった。

日本の食品安全委員会などで安全性に関して、規制ルールをパスしているものであっても、日本とは異なる独自の安全性基準のEUのHACCPルールには従わざるを得ない。とくに今回の場合、イタリア政府は、ミラノ博にはかなりの入場者数が見込まれること、食の万博を売り物にしていることなどから、さらに規制を強化したため、日本コンソーシアム関係者は、想定以上に時間をとられてしまった形だ。

今回のミラノ万博での日本産食材に対するHACCPルール適用の厳しさをJFコンソーシアムの企業関係者は、今後、日本の外食企業がEUの他の域内地域に本格進出する際にも起きる問題で、大きな教訓や課題となった。

日本産食材にこだわると輸送コストや為替で現地価格設定に高値リスク


JFコンソーシアムの企業関係者は、日本産食材を極力、使うことで日本食文化をアピールするのだ、という考えでいるのは間違いない。ところが、その日本産食材へのこだわりが高じると、大半の食材を日本からの輸入調達に頼らざるを得ないが、その場合、イタリアまでの輸送コストが割高になること、為替の円安・ユーロ高、ドル高の状況下で、為替レート次第では同じく割高になりかねないこと、さらに品質保持に冷蔵設備など細心の注意を払わざるを得ず、それもまた、コスト高を招く、という事業採算上の問題が一方で存在しており、JFコンソーシアムの企業関係者は、苦しい判断を迫られたのは事実。

現にミラノ博の日本食関係者は、とくにスシネタ、魚料理の素材のうち、マグロ、タイ、カンパチ、ブリに関して、イタリアなど地中海では安定した品質の魚の確保が難しいため、わざわざ日本からの直送で対応をはかった。ところが日本からイタリアへ輸送すると、たとえば、タイがキロあたり、為替レートの関係で日本国内での価格よりも円換算2倍の割高コストになってしまう。運賃や輸入関税、保税倉庫代などが日本側負担のため、それらを合算すると、大変なコスト高になってしまう。このあたりが日本食関係者の最大の頭痛のタネで、メニューの値決めに関して各社は苦しい経営判断を迫られる場合もある。

食材に関しては、現地産の調達でまかなって対応するケースもあるが、日本食の味のよさ、とくにうまみ部分を引き出すには日本産の食材でないと活きない、というジレンマを感じるJFコンソーシアムの企業関係者が多いだけに、今後のミラノ博の長丁場の中で、どういったやりくりをするか、各社とも独立採算の事業運営でやっているだけに、悩ましいところだと、ある企業関係者は語っている。

「ライスバーガー」や「京懐石料理」、「和牛すき焼きご膳」などが好評価


こうした悩みとは別に、「日本館」の日本食レストラン、日本フードコートのレストランへのイタリア人来場者らの「日本食」に対する関心度は極めて高い。たとえばお弁当、テイクアウトなどを主体にしたBグループのモスフードサービスが展開するコメをベースにヘルシーさを売り物にしたライスバーガーは、日本国内では30年の歴史を持つ馴染みのある商品だが、ミラノ万博会場内ではコメをベースにしたライスバーガーは初めての体験だけに関心を呼んだ。日本フードコート内では日本産の北海コガネを使ったポテト、ドリンクを含めたセットメニューが12ユーロ、円換算すると1600円前後という高価格商品になっている。モスフードサービス関係者によると、珍しさやヘルシーさ、味のよさが加わって、当初の売上げ見込みを上回る売上高を記録している、という。

同じように美濃吉の和食懐石料理、柿安の「和牛すき焼きご膳」など各社選りすぐりの自慢メニューがいずれも現時点で好評を博していることだけは、間違いない。

「食の万博」で日本食文化担い手企業の評価上がればEU進出への布石


JFコンソーシアムの日本企業にとっては、まだスタートしたばかりだが、資材や食材の輸送コスト、為替レートなどの関係で直面する問題は数多くある。今後、食材を現地調達した場合、日本産の食材を使った場合のように、「うまみ」調味料などの工夫で独特の味のよさを出せるかどうか、日本食文化だとアピールできるかという問題などに関して、各社ともミラノ博の長丁場のもとで、さまざまな工夫でチャレンジしていくしかない。

ただ、「食の万博」を売り物にしたミラノ博で、JFコンソーシアムの日本企業が、日本食文化の大きな担い手企業だ、という評価を得れば、個別の企業にとってだけでなく、日本の外食企業全体にとっても、大きなプラス効果を生む。さらに、イタリアでの成功をもとに、日本食文化を携えて、EU全体を視野に置いて外食企業の進出ということも今後、個別企業によっては戦略展開を考えられるが、その際、HACCPなどへの対応を含めて、今回のミラノ博での教訓をもとに課題克服にうまくつなげていけば、道は大きく広がっていく可能性がある。

寄稿者:牧野 義司 氏(経済ジャーナリスト、メディアオフィス「時代刺激人」代表)