2015年ミラノ万博・日本食プロジェクト

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2015年ミラノ万博・日本食プロジェクトにJF会員企業7社が参加

5 月開会に向け着々準備、 EU 基準に合わせた日本産食材が課題に


2015年5月に迫ったイタリアのミラノ万博(国際博覧会)に参加予定の日本政府運営の「日本館」での日本食プロジェクトが本格始動した。

この日本食プロジェクトには日本フードサービス協会( JF )会員企業で、特定非営利活動法人( NPO )日本食レストラン海外普及推進機構( JRO )とも協同して活動する7社が、日本政府の要請で参加を決め、ユネスコの無形文化遺産に登録された日本食文化をアピールする絶好のチャンスと現在、日本食プロジェクト成功に向けて着々と準備を進めている。

そこで、今回から数回にわたって、ミラノ万博の日本食プロジェクトについて、さまざまなアングルからのレポートをお届けする。まず今回は、参加企業 7 社がどんな取り組み中か、また参加に向けて直面している課題は何かなどに関して、現場関係者らの話をもとにお伝えしよう。

今回のミラノ万博は「地球に食料を」がテーマ、148か国・地域が参加


万博は、国際博覧会条約にもとづき5年ごとに世界各国で開催される。2010年に中国で開催された前回の上海万博に続くもので、今年5月1日から10月31日までイタリアのミラノで184日間にわたって、開催される。現在、世界148か国、および地域、国際機関が参加を予定している。

イタリア政府は今回のミラノ万博のテーマに関して「地球に食料を、生命にエネルギーを」というスローガンを掲げ、衣食住の人間の生活の根幹とも言える「食」にスポットを当てている。
フランス革命時の1798年、パリ開催の国内博覧会が最初で、その歴史は極めて古い。しかし現在のようなさまざまな国々が参加して、それぞれの国の物品などを集めて展示する国際博覧会になったのは、1851年のロンドン万博(第1回)からで、その時点から数えても164年間の長い歴史を持つ。

日本は、江戸時代の幕末の1867年のパリ万博から参加したが、1970年の大阪万博、2005年の愛知万博などが日本国内の多くの人たちの記憶に残っている。

日本もユネスコ無形文化遺産登録の「日本食」を強くアピールするチャンス


今回のミラノ万博では、日本政府は「HARMONIOUS DIVERSITY――共存する多様性」をテーマに、日本食が2013年12月に国連機関のユネスコから無形文化資産として登録されたことを踏まえ、日本の強み部分とも言える日本食を全面に押し出して、さまざまなプロジェクト展開を企画している。今回のJF会員・JRO協力企業のレストラン関係7社が参加する日本食レストランプロジェクトもその一環だ。

政府関係者によると、この「日本館」は現在、建設中だが、参加する国・地域などの中では最大規模の4170平方㍍の大きな面積に及ぶ。7月11日には「ジャパン・デー」を計画しており、日本のソフトパワーとも言える日本食文化を全面に押し出し、世界中にアピールしていく、という。その意味で、レストラン企業7社による日本食のレストラン展開のプロジェクトは最大のイベントともなる。

参加7社が共同事業体で運営、懐石料理や一汁三菜などを展開


参加企業は、アイウエオ順に壱番屋、柿安本店、サガミチェーン、人形町今半、美濃吉、モスフードサービス、吉野家ホールディングス(京樽)の7社。現時点ではJF、JROが政府系の独立行政法人JETROと連携してミラノ国際博覧会日本館レストラン準備委員会を組織し、7社による共同事業体が全体の運営にあたる。

日本館の日本食レストランでは、日本の懐石料理を代表する形で美濃吉が5月から10月末までかかわる。またフードコートにはA(一汁三菜、国酒、抹茶)グループに柿安本店、人形町今半2社、B(弁当、テイクアウト、抹茶)グループにモスフードサービス、吉野家ホールディングス(京樽)、Cグループ(麺類、国酒)にサガミチェーン、Dグループ(カレー)に壱番屋がかかわる。
このうち、A、Bグループは柿安本店とモスフードサービスがそれぞれ会期中の前半3か月、また人形町今半、吉野家ホールディングス(京樽)が後半3か月をそれぞれカバーする形となる。

参加企業によると、7社は現在、着々と出店準備中だが、厨房設備や食材などを順次、船便で現地イタリアに輸送するにしても、船が到着後、保税倉庫で検査を受けたりするのに最低で2、3週間を要することを考え合わせると、今年2月上旬には輸送開始で行く必要がある。このため、かなり早いテンポで準備を進めなければ、開幕に間に合わない恐れがあり、参加企業各社は必死で準備を進めている、という。

EUは食品安全に厳しく域外からの食品に原産地証明など義務付け


しかし現在の参加企業の大きな悩みは、各社が日本食の調理に使う食材、特に出汁(ダシ)のもとになるカツオブシなどに関して、欧州連合(EU)の食品安全基準、HACCP(総合衛生管理製造過程)にもとづき原産地証明などの義務付けに抵触する恐れがある点だと関係者は述べている。

多くの国が加盟するEUは、域内農畜産物、水産物にとどまらず域外のさまざまな国から輸入する食材や食品に関して、安全性確保第一に厳しい品質管理基準を設けてチェックを行っている。日本や米国もEUに劣らず、厳しい安全基準を設けているが、加盟各国の数が圧倒的に多いEUは、統一ルールを厳しく維持することで、連帯を図っている。

カツオブシがHACCP抵触の恐れ、基準満たした専用工場で加工を


今回のミラノ万博は、「食」を全面に押し出したテーマ設定のために、EU加盟国のイタリア政府としては保健省、それに実施主体のミラノ国際博公社とも安全管理に関して、参加各国にHACCPなどの基準順守を強く求めており、日本だけの問題ではない。

参加企業関係者の話では、EUのHACCPルールに抵触する恐れがあるのは、カツオブシだ。日本では、政府の食品安全委員会でもカツオブシなどの安全性をめぐって、原産地証明を問題視する事態に至っていないが、EUの場合、安全性確保のために原産地証明が必要。それだけでなく、HACCP基準に合致した専用船で水揚げし、水揚げ後も基準を満たした専用工場で加工することが義務付けられている。

日本政府が政府間で交渉、万博会場限定の特例措置適用の可能性も


今回のミラノ万博でもイタリア政府はルールを厳格に適用する考えがあり、参加企業関係者は「現地調達できる食材があれば、それによって代替可能かもしれないが、カツオブシのような日本独特のものは、なかなか現地調達とはスムーズにいかないので困ったことになりかねない」と述べている。

そこで、日本政府がイタリア政府などとの間で、事態打開のため、政府間交渉を行っているが、関係者によると、ミラノ万博の開会期間中、HACCPの適用に関して、会場内での使用に限定し特例措置が適用される可能性が高い、という。その場合でも、専用船での水揚げ、専用工場での加工したカツオブシという条件は守ることが前提、という。
日本食レストランプロジェクトに参加する企業関係者は、極めて重要な問題のため、万博開会まで、ずっと事態の推移を見守るしかない、という。

寄稿者:牧野 義司 氏(経済ジャーナリスト、メディアオフィス「時代刺激人」代表)