ミラノ万博特集 (3) デジタル時代の3D映像演出

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デジタル時代を反映し3Dで迫力ある演出相次ぐ

次期開催国カザフスタンが突出、UAEやタイも映像アピール


ミラノ万博特集3は、今回の万博で、グローバルに広がるデジタル時代を反映して、3次元(3D)画像を活用した情報発信が数多くのパビリオンで見受けられたので、それをぜひ取り上げてみよう。いずれも迫力があるうえ、見ごたえある情報発信が多かった。

万博関係者が一番に薦めたのは、2017年の次期万博開催国のカザフスタン館だ。万博会場大通り中央にあって、いつも入場待ちの行列が途切れることなく続いているので、気になっていた。そこで、1時間近く辛抱強く並んでパビリオンの中に入ってみたら、確かに、待ったかいがあった。

カザフスタン館は砂絵で描く歴史、3D活用したエネルギー大国像が話題


最初の大きな部屋では、正面のスクリーンに砂絵でカザフスタンの歴史を描く。独自文化を持つ遊牧民族地域が帝政ロシア、そして旧ソ連傘下に入れられる苦闘の歴史が続いたが、旧ソ連邦崩壊で1991年に独立したあと、豊富な地下資源を活用して一転、中央アジアの中進国に成長を遂げる歴史を描いたものだ。

見ごたえがあったのは、その砂絵だ。部屋右隅のステージにいる女性が両手で砂地にさまざまな絵を描く。映像技術を巧みに駆使しながら、その女性の手や指先が苦難の歴史をたどった民族の苦しみをうまく表現していく。
しかし圧巻は、3つめの劇場仕立ての部屋で3次元の眼鏡をつけて見る現代カザフスタンを描く映像だ。空中を飛ぶようにして、雄大な自然風景から首都アスタナの現代都市の風景まで、3D技術で迫力たっぷりに見せる。デジタル技術の効果はすごいと感じた。

カザフスタンの次期万博テーマは未来のエネルギー。カザフスタンは石油資源のみならずクロム鉱が世界第2位、ウラン鉱が同3位のシェアで、鉱物資源を豊富に持ち、今や地政学的かつ戦略的に中央アジアでの要衝になっている国だ。エネルギー資源を武器に経済に勢いがあるからこそ、3D映像技術で自信のほどを見せたかったのに違いない。

UAE館は映像技術駆使、「食料には水、土地の有効活用を」とアピール


万博会場で同じく人気だったのが、アラブ首長国連邦(UAE)だ。このパビリオンも「映像技術で見ごたえがある」と聞いていたので、1時間待ちで並んで入ってみたら、やはり大当たりだった。
 パビリオンに入る直前のパネルで、まず「食料には水、土地、エネルギーの3つが必要です。UAEは石油エネルギーを除く2つが決定的に不足し、食料の85%を輸入に依存しています」とし、食料確保がUAEにとって大きなテーマであることをアピールした。

それを踏まえて、最初の大きな部屋では、3D技術を駆使したストーリー性のある映像が10分近く流れた。サラという名前の少女を主人公にして、砂漠の中で必死に水を探し求めるストーリーだが、54年前の1961年に突然、少女がタイムスリップして若いころの祖父母に出会い、テント生活の中で水や食料の確保をめぐって苦闘する。それがドラマ仕立てになっているが、デジタル技術の巧みさも加わって、なかなかインパクトがあった。

しかし興味深かったのは、観客を次の部屋に移動させて、ドラマから何を学ぶか、といったフィナーレ部分をバーチャル映像によって、少女サラや関係者に語らせる部分だ。「国づくりには農業が最重要。そのためにも水をどうコントロールするかがカギ」と。日本は、山間部からの雨水、地下水など水には恵まれ、それをもとにした農業の生産体系が構築されているが、UAEなど中東産油国にとっては石油資源が豊富にあっても、食料生産に欠くことのできない水の確保こそがカギを握る、とアピールしたかったようだ。

クウェート館は砂漠都市を浮き彫り、映像にこだわりメッセージ性に欠ける


対照的なのが同じ中東のクウェートだった。デジタル映像にこだわるあまり、UAEのような「食料生産のために水の確保を」といったメッセージ発信がなく、画像の美しさと砂漠都市国家のクウェートの存在感アピールにとどまった。デジタル映像技術を駆使しながらも、やや国威発揚に終始した、という印象だったため、万博会場では観客も物足りなさを感じたのは否めなかった。

パビリオンの入り口では、最初に、砂漠の国に必要な水を滝のように流すショーを見せた。何か面白い展開があるのかなという期待を観客に抱かせたが、そのあと次の大きな部屋に入ると、天井まで広がる広いスペースを使って、デジタル技術を駆使した映像展開となった。
 その映像は、まず、タカが砂漠で大きな羽根をはばたかせて雄大に飛び回る姿を見せたあと、タカが突然、海に飛び込む。画面は一転して海の世界になる。灼熱の暑さの砂漠から別世界のような海の中に入って、さまざまな魚が泳ぎまわる姿は、映像の美しさも加わって、観客を魅了する。しばらくして、海上に出ると、そこには砂漠の都市国家クウェートがあり、高層ビルの間を抜けて近代化した都市の姿を描いていく、という設定だが、「食」をテーマにした万博のイメージからは、ほど遠い感じだった。

タイ館は雨水に頼らざるを得ない現実認め治水対策強化を映像で発信


その点で、同じく映像技術を駆使しながら、水をどうコントロールするか、という農業生産用の治水対策などの問題にしっかりと迫ったのがタイだった。

タイ自体は、中東諸国と違って水資源に恵まれているのでないか、と一般的には思われている。ところがタイのアピールは違った。パビリオン内の360度の空間を活用した映像展開では、タイは広大な農村地域が広がっているものの、雨季と乾季に対する治水対策が遅れていることを率直に認め、天からの雨水に頼らざるを得ないこと、国王自らが国内視察現場で雨乞いも辞さずという苦闘が続くことなどを描いた。

そして最後は、雨が降り始めた時に農民が雨を浴びるようにして喜ぶ姿を映し出して、タイの大きな課題は、灌漑など水利計画にエネルギーを払うことで、しっかりと取り組んでいきたい、といったメッセージ発信で締めくくった。大きな画面を使ってのデジタル映像はインパクトがあった。

しかしタイは、農業国の顔を持っており、今回の万博パビリオンでは「KITCHEN TO THE WORLD」というタイトルの映像によって、タイ国内で生産される豊富な農産物を生鮮食材、あるいは食品加工の形で世界中の届けている、とアピールした。この映像もデジタル技術を使って、多くの観客を引き付けるために、さまざまな食品を見せるデザイン面での工夫がみられた。

寄稿者:牧野 義司 氏(経済ジャーナリスト、メディアオフィス「時代刺激人」代表)