ミラノ万博特集 (4) 国威発揚が先行する国々も

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 「食」がテーマなのに国威発揚が先行する国々も

主催国イタリアだけでなく米国、ロシア、中国が大国誇示


ミラノ万博は、「地球に食料を、生命にエネルギーを」という形で「食」をメインテーマにしている。ところが、140ほどの国が互いに競って参加すると、面白いもので、テーマの「食」を取り上げながらも、「我が国は農業や食への取り組みでは他国よりも際立っている」といった形で、まずは国威発揚を、とアピールを先行させる国が意外に数多く見受けられた。

象徴的だったのが主催国イタリアだ。主催国の特権として、さまざまなパビリオンを設けたが、メインのパビリオンで、多くの人たちのひと目を引いたのが 「A WORLD WITHOUT ITALY?」と、壁に書かれたメッセージだ。なかなか興味深いメッセージだ。わかりやすく言えば、「イタリアなしの世界ってあるの?」というもの。

「イタリアなしの世界は考えられない」、随所に「強さ」をアピール


イタリア館の中を見て回ると、英語の「STRENGTH」(強さ、強みの意味)、そして「IDENTITY」(アイデンティティ、独自性、個性、さらには国の存在感の意味)といった言葉が目につく。
 ローマ帝国を含め、イタリアが世界の長い歴史に残した足跡は計り知れないものがある、イタリアという国がなければ世界はいったいどうなっていたか、イタリアなしの世界は考えられない、といったことを言いたいのかな、と思わず勘ぐりたくなるほど、さまざまな展示はイタリアの「強み」をアピールするものになっているのが極めて印象的だった。

しかし、今回のミラノ万博の最大テーマは「食」であり、主催国としてもその取り組みが問われる。どういった取り組みや問題提起をするのかなと思っていたら、一番最後の展示ルームで、それを見ることができた。「科学が伝統的な農業のムダをなくす」といったテーマで、イタリアがチャレンジするさまざまな事例を紹介している。

イタリアが誇る技術によってサハラ砂漠で完熟トマト生産可能ともアピール


その1つが、イタリアの誇る科学技術によって、サハラ砂漠でもトマトの生産は十分、可能だとする。具体的にはHYDROCULTUREという、土を使わずに肥料成分を水に溶かした溶液栽培手法などで完熟トマトを生産できる技術を持っており、今後は独自の技術開発に磨きをかければサハラ砂漠でトマトの量産も難しいことではない、といった形だ。
これ以外にも、イタリアでポピュラーな羊の乳を原料としたペコリーノ・チーズに関して独自のリサイクリング技術で再生が可能だとか、さまざまな取り組みを紹介している。なかなか見ごたえがあったのは事実だ。

米国館はオバマ大統領がビデオで地球の食料危機克服をアピール


このイタリアに負けず劣らずに国威発揚ぶりが目立ったのが米国、そしてロシア、中国の大国だ。
このうち米国パビリオンは、米国らしいパフォーマンスを全面に押し出す外観だ。中に入ると、オバマ大統領がビデオで「地球上で現在70億人の人口がいずれ90億人にのぼると推定されている。この時に食料不足によって飢餓が問題になるような食料危機の事態を回避するために、あらゆる努力が求められる。米国も積極的にコミットする」といったメッセージを流し、世界のリーダー国をアピールした。
ところが、米国の農業や食品産業、研究開発などの現場やその取り組みを紹介するコーナーでは、先端の取り組みがあるのかと期待したが、やや拍子抜けで、米国という大国のアピールが先行して、インパクトに欠けた、という感じだった。

ただ、米国館の外では、FOOD TRUCKという移動キッチンカー、日本流にいう屋台の大型トラック版のような「フード・トラック」が並び、米国の新しい外食スタイルをアピールした。これに関しては、別の特集でレポートする。

ロシアは国内20数州のカラフルな地方料理を壁面を使って展示


この米国館から少し離れたところにあるロシア館も巨大なパビリオンで、同じく大国を全面にアピールする外観だった。
ところが、そのロシア館の内部で目立ったのは、ロシア国内の20州強にのぼる各地方のさまざまな伝統料理を大きな周囲の壁面を使って紹介したことだ。日本人がイメージする一般的なボルシチなどのロシア料理とは違って、それぞれの地方の特色を浮き彫りにするようなカラフルな料理が写真の形で描かれていた。

ただ、ロシアが今回のミラノ万博の「食」の課題テーマに対して、どういった取り組みをするか、といった問題提起をする設定がなく、むしろ地方料理の紹介、また中央部でのロシアの飲み物などを紹介するコーナーなど、どちらかと言えばロシア物産館といった印象だった。

中国、ブラジルは巨大人口が抱える食料問題への取り組みなどを紹介


これに対して、同じく大国を誇示する中国は、「天」「地」「人」などをキーワードに、スケールの大きな発想で歴史をからめて、中国農業、食料生産への取り組みを描いた。

13億人の巨大な人口を抱える中国だけに、農業、とくに食料生産では常に質よりも量の確保が宿命的に課題となるが、今回のミラノ万博で、中国は、新しい技術開発にもチャレンジし生産力の拡大に強めると同時に、品質改良への取り組みも強め、安全な食べ物の確保にも努める、とアピールしたのが印象的だった。

人口の多さで同じような食料問題を抱える新興大国のブラジルも、パビリオンでは壁面などを使って、いまブラジルの食料問題の現状などをいろいろ紹介した。ただ、その問題解決には今の最重要課題が何で、どう取り組んでいるか、といった点に関しては、あまり踏み込んだ部分がなく、見ている人たちに物足りなさを感じさせたのは否めない。

ただ、ブラジル館になぜか、長い行列があるので、何が魅力なのか、と思ったら、パビリオンの2階部分に至る近道のような形で網の目状のネットが張ってあり、そこをトランポリンのように飛んだり跳ねたりして上に上がっていくコースに人気があることがわかった。

寄稿者:牧野 義司 氏(経済ジャーナリスト、メディアオフィス「時代刺激人」代表)