「食」をテーマにしたミラノ万博(国際博覧会)だけあって、各国の政府関係者、民間の食品関係者、レストランなど外食関係者、それに会場を訪れた消費者の関心は間違いなく数多くある。
その中には、人口減少する日本以外の世界、とくに新興国を中心に爆発的に増加する人口がもたらす食糧危機をどう克服するのか、といった難しい課題への答えを知りたい、という人たちもいれば、「食」の今後のトレンドは何か、どういった食品開発が行われるのか、消費者ニーズにこたえるレストランなど外食企業の取り組みは何かなどに強い関心を持つ人たちもいる。
このうち、後者の「食」の今後のトレンドを探るうえでとても参考になる、ヒントになるものがいくつかあった。「未来の食品スーパー」や新しい外食スタイルの「フードトラック」などがそれだ。そこで特集5では、これらの動きをご紹介しよう。
まず、「FUTURE FOOD DISTRICT」というタイトルのパビリオンがあったので、いったいどんなものが未来の「食」なのか、と入ってみた。同じような関心を持つ人が多いのか、館内はかなりの人が入っていて、もの珍しそうに動き回っていたが、「未来の食品スーパー」のようなものだった。
大手食品スーパーと同じような店舗展開で、商品が見やすいように4段ぐらいの陳列棚が並ぶ構造になっている。生鮮野菜などのほか、加工食品も数多く並べられているが、いったいどこが「未来の食品スーパー」なのだろうかと思わず考え込んでしまうほどだった。
ところが、実際に、それぞれの商品、とくに加工食品などを見て、思わず納得した。要は、それら食品に含まれている原材料の成分表があり、そこにはカロリーがどれぐらいか、こと細かに表示されている。もちろん、それにとどまらない。原産地から始まって、生産・製造に関するあらゆるデータがすべて書かれ、いわゆる生産に関するトレーサビリティがデータの形で示されている。これらがすべて商品ごとにボタンを押せば、デジタル画面に表示される。今でも安全・安心は、消費者の間で関心度が高いものだが、今後、さらにそのニーズが高まることを踏まえて、食品スーパーにとってはきめ細かい対応が必須であることをうかがわせた。
「未来の食品スーパー」は、消費者が知りたい商品データ、とくに安全・安心につながるデータをすべてデジタル表示で説明します、というのがポイントだ。それよりも驚くのは、スーパーで見かけるセールストークのスタッフ、商品補充で動き回るスタッフなどがほとんどいなくて、お客は買い物かごに購入商品を入れてレジのところでは、すべて自動レジで対応する。購入商品を打ち込んで請求額が出たらクレジットカードで買うか、現金で買うか選択肢があったが、大事なことは、すべてコンピューター処理され、日本のスーパーで見かけるレジのスタッフがゼロなのだ。
極めつけは、ロボットの活用だ。「未来の食品スーパー」では、いずれロボットが重要な役割を演じる、ということをアピールするためのデモンストレーションと感じたが、2台の固定されたロボットがそれぞれの腕を使って商品を並べたり、運んだりと自由に役割を果たしているのが印象的だった。いずれは、二足の足を生かして動き回るロボットが本格的に登場するのかもしれない。
「食」のトレンドを印象付けたのが、フードトラックだ。際立ったのが米国館の外にある広場に並んだ6台の大型トラック群だ。バーガーやロブスター、肉ステーキ、ピッツアなど6種類の料理をトラックに備え付けた調理キッチンで注文と同時に焼いたりしてお客に提供することからフードトラックと名付けられた。いま、米国の大都市ではポピュラーな外食スタイルとなっており、米国はそれをアピールしようとしたようだ。
たとえばバーガーのフードトラックでは米国人が好むブラックアンガスの牛肉を使ったバーガーなどをお客の注文に応じて調理しお客に振る舞う。固定した場所でなく、移動しながらお客に対応できること、トラックの上でしっかりした調理設備を使って調理ができることなどが売り物のようだ。
日本でも東京など大都市のオフィス街では昼間、小型トラックに調理設備を乗せてカレーライスなどを販売したり、あらかじめ仕込んできた弁当を売るフードトラックがあり、それ自体、珍しいものではないが、ミラノ万博会場の米国のフードトラックは大型で機動的な上に、トラックに備え付けられた冷蔵庫を含めた調理設備が中途半端なものではない。いま、米国の外食現場では移動自由の機動性の強みも加わって、新たな「食」のトレンドとなりつつある。
その点で、日本版の屋台的なフードトラックが多かったのがオランダ館の広場だった。こちらのフードトラックは、日本でよく見かけるタイプのもので、店側のスタッフとお客の目線がほぼ同じレベルにあり、トラックも小型で、スタッフが気さくにお客に語りかける庶民的な雰囲気を醸し出していたのが特徴だ。
万博主催国のイタリアのパビリオンそばでもフードトラックが数多くあった。イタリアではフードトラックがキオスコ(日本ではキヨスク、キオスクという新聞や雑誌を販売する小型店舗だが、イタリアではそれがキオスコの名前でポピュラー)とも呼ばれて、その屋台風の小型トラックでアイスクリームなどのほか、サラミやチーズが中に入ったティジェッレという小さなパンが売られていた。地元イタリアということもあるが、行列ができるほどだった。中でも万博期間中、暑さがすごかったせいかアイスクリームが人気だった。
興味深かったのは、イタリアのパビリオンの一角に「EATLY」という大きな文字の建物があり、その中にレストランが数多く入っていたことだ。食べる意味の「EAT」とイタリアの「ITALY」をミックスしたところが面白いが、今や世界中で店舗展開しているイタリアの食材販売の専門店「EATLY」がミラノ万博で存在感をアピールしようとしたようだ。
その建物の中に入っているさまざまなタイプのイタリア料理のレストランは万博期間中、毎月、月替わりでレストランが入り、万博入場客にイタリア料理、それにイタリアワインをリーズナブルな価格で提供した。
寄稿者:牧野 義司 氏(経済ジャーナリスト、メディアオフィス「時代刺激人」代表)