農水産物・食品輸出の先進モデル事例はオランダに

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産官学「ゴールデントライアングル」での現場支援体制がカギ


 日本政府は、これまでの「守りの農業」から「攻めの農業」へのギアチェンジによって農水産物輸出の積極的な海外展開に踏み出している。昨年2015年11月のTPP(環太平洋経済戦略協定)総合対策本部(本部長・安倍首相)会合で、政府が以前に決めた「2020年に1兆円の農産物・食品輸出達成」の目標年次について、さまざまな対策を講じて目標の前倒し達成をめざすことを決めたのもその典型例。

 そして今年5月、政府は、食品メーカーなど関係者に対し農林水産業の輸出強化戦略を提示して協力を求めた。それによると、ベトナムやシンガポールなど21か国・地域ごとに、市場分析を行って売れ筋品の選択、輸出面でライバルとなる国々への対抗策、輸出相手国の規制緩和や撤廃に向けての省庁横断の対策チームの設置などがポイントだ。

 JRO(特定非営利活動法人日本食レストラン海外普及推進機構)はこの際、民間サイドも目標前倒し達成に積極協力、ということで、これまで会員企業の海外営業展開などで知りえた海外の農産物輸出国の積極的な取り組み、日本にも参考になる先進モデル事例などを探った。その結果、オランダの取り組みがぴったりあてはまった。

世界で売れる、シェアとれる農水産物・食品づくりが最重要課題


 そこで、面積にして日本の九州の大きさしかないオランダが、今や米国に次ぐ世界第2位の農産物輸出国になっている戦略の秘密、さらには輸出力の強み部分とはいったい何なのかなどについて、現場取材体験のある経済ジャーナリストのレポートを3回の連続シリーズでお届けしよう。

 さっそく私(経済ジャーナリスト 牧野義司)からレポートさせていただこう。いくつかのオランダの農業や輸出戦略などにかかわる人たちを取材した結果、日本にとって極めて参考になるポイント部分がいくつか浮かび上がった。

 まず、その1つは、オランダがEU(欧州共同体)を軸に米国、アジアなどのグローバル市場で圧倒的な強みを持てる輸出用の「世界で売れる、シェアをとれる農水産物・食品」づくりのために、産官学、つまり農業関係企業、官庁のEL&I(経済・農業・イノベーション)省、そして研究機関の大学が三位一体で連携、オランダ流に言うと「ゴールデントライアングル」、黄金の三角形による連携の枠組みをつくっていることだ。

新品種開発成果は現場にオープン開示し共有、「オランダ産」で世界勝負


 EL&I省の幹部は、このゴールデントライアングルの産官学連携について、種子を一例にあげて述べた。

 「オランダは今、トマト、パプリカ、キュウリの3品目を軸に、花きなど輸出競争力のある農産物づくりに磨きをかけているが、その強みを維持するには品種改良、とくに種づくりで改良を加えることが最重要で、産官学連携を活発に進めている」という。

 「種子企業数社がアイディアを出し合い、生産現場の農業関係者も経験を踏まえて進言する。大学研究者も加わって研究開発や実験協力を行う。国はそれらの開発費用をすべて負担する。開発され商品化のメドがついた新品種はただちにオランダ国内の農業関係企業に平等に情報開示されると同時に、技術が国外に流出しないようにパテント登録も行われる。これによって、オランダ産という新品種のブランドが出来上がる」と。

福岡「あまおう」、栃木「とちおとめ」の産地間競争に走る日本とは対照的


 日本はこの点、品種開発に関しては個別農場レベル、あるいは都道府県の試験所研究機関などが行い、市場競争力を持つ新品種だとなった場合、地域ブランド化して商品登録も行い、他の産地との差別化商品であることを「売り」要因にしてしまうケースが多い。端的にはイチゴの福岡産「あまおう」、栃木産「とちおとめ」がいい事例で、互いに産地間競争を行って、狭い国内市場で競い合ってエネルギーを消耗してしまう。

 ところが、オランダはそこが決定的に違う。世界市場で「オランダ産」を武器に勝負するため、オランダのどの地域産といったブランド名をつける必要がない。新品種開発に向けての体制も当然ながら、オランダという国の富につながるように産官学一体での連携した開発体制となる。国内販売競争でエネルギーを使うよりも、世界市場でもっと大きなシェアをとることの方がもっと重要との判断だ。そのEL&I省幹部は、「国が品種開発などに惜しみなく財政資金を投じても、それによって売上高アップ、利益アップとなれば税収が上がります。投資効果は大きいです」と。

ワーゲニンゲン大学専門家「輸出先市場研究にもっとエネルギーを」


 オランダのワーゲニンゲン大学の専門家、POPPEさんは「日本へのアドバイス」という形で、次の点をポイントに挙げた。1)オランダのようなゴールデントライアングルの産官学連携体制をつくること、2)国は輸出先市場でオランダ産の農産物が有利な勝負ができるように輸出相手国の植物検疫などのマイナスファクターの除去の対策をとったり、オランダ国内の農場でのICT(情報生産技術)などがプラス寄与するように最新技術開発投資を行ったりする。市場での価格競争は民間のリスクに委ね、国は市場競争には関与せずとすること、3)民間の農業企業は、国と連携して、輸出先市場のマーケットリサーチを行い、何が売れ筋か、さらにブランディングや包装、梱包をどうすれば効率的かなどを探って、それらの情報を共有することーーなどだ、という。

中国がオランダと同じ輸出攻勢かけたら、日本はそれでも勝てる?


 確かに、オランダは狭い国内市場を主力市場にするメリットがない、むしろ巨大なEUの域内市場、さらには米国やアジアの成長市場をターゲットにして「オランダ産」を売ればいいのだ。アジアでタイ、シンガポール、あるいは香港市場で日本の地域ブランドが互いに競い合って、和牛1つとっても「松阪牛」、「佐賀牛」などと競ったり、さきほどのイチゴの「あまおう」「とちおとめ」などが張り合っているのがいい例だ。

 そんな現地市場に今後、中国産だ、韓国産だと、これまでとちがった品質のよさ、味のよさで、しかも市場シェアをとるため安値で割り込んできた場合のことを考えると、日本はどこまで市場競争で勝てると強気でいることができる保証があるのかどうかだ。

 その点でオランダは今後、ますます「オランダ産」1本で、しかもゴールデントライアングルの産官学連携の研究開発や品質研究体制を武器に、国を挙げてのバックアップ体制で世界市場シェアをとる輸出作戦に磨きをかけることは間違いない。中国や韓国なども、そのオランダの戦略的な強みに気が付き、追随して輸出市場で攻勢をかけてくる可能性は十分に考えられる。日本は今後、そうした事態をどこまで想定し、「攻めの輸出」で大きな体制を組めるかどうか、という点だ。その意味でも日本は、オランダから学ぶことは多い、というのが実感だ。

(経済ジャーナリスト 牧野義司)