国際マーケットつくり、強みの花でサービス貿易

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空港脇の花き市場に内外から集荷、売買後に外国へ輸出


 九州と同じ広さのオランダがなぜ、米国に次ぐ世界第2位の農産物輸出国になり、グローバル市場でもケタ外れの存在感を見せるのか、どう考えても不思議で仕方がなかった。ところがオランダの首都アムステルダム近郊にあるスキポール国際空港そばで花きを売買するアールスメール卸売市場の現場を見てみたら、それが理解できた。そこで、オランダに学ぶ第2弾は、この花き卸売市場のスケールの大きさ、グローバル市場にも影響力を及ぼす秘密が何にあるのか、具体的にレポートしてみよう。

 結論から先に述べよう。オランダは、チューリップなど花の栽培では世界的に競争力を持つ国だったが、農地の狭さ、人件費など生産コストの上昇などのハンディキャップを抱える中で、それを克服する独自ビジネスモデルを新たにつくりあげ、今やそれらを武器に、花き栽培のみならずグローバルな流通、販売で圧倒的なシェアを確保する国に様変わりした。カギを握るのがアールスメール卸売市場だ。要は、戦略の巧みさが見事なのだ。

オランダは利益率高い花に特化、それ以外はケニアなどに生産委託


 わかりやすく申し上げよう。オランダは、チューリップ、バラなど花の栽培に関して、狭い農地を有効活用するため、ガラスのハウス栽培に移行、とくにICT(情報通信技術)やコンピューターでのシステム管理に優れ、生産力の強さを誇っていた。ところが日本と同様、人件費の上昇などでコスト競争力が落ちたため、利益率の高い高価な花は自国内生産に集中、それ以外の割安で量産できる花の栽培はケニアなど外国での現地生産に移行、その生産を主導して、花き栽培におけるオランダの影響力を維持した。

 問題はそのあとのオランダの戦略展開、新ビジネスモデルづくりに凄みがあった。オランダは、自身の息がかかったケニアなどの花だけでなくアフリカ各国、さらには中南米のコロンビア、エクアドルなどの花の主力生産国の花をすべて自国のスキポール国際空港そばのアールスメール卸売市場に一手に集荷し、自国内の花と合わせてオークション(競売のセリ)あるいは相対の直接取引する国際花き卸売市場システムを確立したのだ。

市場シェアが60%、オランダが世界の花市場のプライスリーダーに


 早い話が、ケニア、コロンビア、エクアドルなどにとっては、自国の花き市場は相対的に規模が小さく価格形成力がない。当然、市場支配力もない。それに対してオランダのアールスメール卸売市場に花を持ち込めば、市場の需給関係次第でオークションによる高値落札となって利益が見込める、しかもスキポール国際空港からEU(欧州共同体)、米国やロシアなど第3国への輸出も可能で、オランダがある面で世界に展開できる中継基地にもなるメリットがある、と踏んだ。

 この結果、オランダの思惑どおり、アールスメール卸売市場には、ややオーバーに言えば世界中の花が集まり、今やグローバル市場の60%のシェアを持つ巨大卸売市場になった。プライスリーダーとなるのは最大の強み部分だ。

 しかもオランダは、場所貸しによるオークションでの売買手数料、課税収入などで十分におつりがくるビジネスモデルを作り上げたのだ。日本が今後、攻めの農業展開を行うにあたって、オランダから学ぶべきなのは、この戦略的なビジネスモデルづくりだ。

アールスメール花き市場は戦略的立地、物流ネットワークを本格整備


 さて、ここで、私が体験したアールスメール卸売市場の現場をレポートしよう。ジャーナリストの好奇心でいろいろ仕込んだ情報をお伝えすると、花き専門のこの国際的な卸売り市場は、スキポール国際空港に近い場所に立地、という戦略的なポジションだけでなく、ロッテルダムという世界屈指の貿易港のシーポートにも近く、しかも高速道路網、鉄道網の物流ネットワークも張り巡らされている。言ってみれば戦略的立地なのだ。

 写真でご覧になれば、すぐおわかりのように場内は、トローリー、台車に積まれた世界中の花が、いたるところにオークション待ちなどで置いてあるが、この広さは100万平方メートルというからすごい広さだ。1トローリーにうず高く積まれる花の重さは1500キロと聞いた。本当に、そんな重量があるのか、と思ったが、色鮮やかな花がぎっしりと詰め込まれているのを見ると、その数字も嘘ではないのかと思った。

 アールスメール卸売市場関係者によると、市場は365日、全く休みなく開けており、1日も24時間フルに活動している。時差に関係なく、世界中の国々から花が持ち込まれるためだ。毎日、切り花ベースで300万本が取引対象になる、という。集荷された花は、大半がオークションで売買されるが、写真にあるような階段状のオークションルームで、仲買人、購入委託を受けた買参人がパソコン画面に希望購入価格のボタンを押して売買成立させる。1日の売買成立額は日本円換算で約46億円になる、という。

市場内コールドチェーンシステムがすごい、品質管理技術も抜群


 アールスメール卸売市場のすごさは、こんなものにとどまらない。私が聞いて驚いたのはコールドチェーンシステムだ。世界中から、高値でのオークションによる売買を期待して集まる花は、オークション前後に花が開きすぎると、次の輸出先市場に運ばれて、さらに各国の花屋さん、スーパーマーケットなどの店頭にたどり着くころにはピークを過ぎてしまうリスクが発生する。そこで、最終の花屋の店頭でベストの状態にしておき、商品価値を維持する、いわゆる品質管理技術がカギとなる。

 そのコールドチェーンシステムは、100万平方メートルの巨大な卸売市場の全域を常に10~15度、花によっては10~12度に維持する、しかも輸出梱包して飛行機便待ちという花となると、保冷庫で昼間4度、夜間2度の低温で維持が必要だそうで、これらすべての花の綿密な温度管理がポイントになる。このシステム管理をコントロールセンターで集中的に行っている、という。

物流効率化でパーコード化進む、バレンタインデーは花贈答で大賑わい


 また、物流の効率化のために、パーコード化が進んでいて、花の品目、特性、等級、それに梱包、検品コードなどがすべてパーコードに打ち込まれている。トローリーの花にはすべてがパーコード化されていて、それをコンピューターが読み取って、米国向け、ロシア向け、アジア向けなどの貨物飛行機に載せるトラックまでトローリーが運ぶのだ。サイバーテロで、このシステムが破壊されたら、アールスメール卸売市場、スキポール国際空港は致命的な状況に陥りかねない。このシステム管理対策もすごい手当てが行われている、という。当然のことだ。

 いずれにしても、オランダがアールスメール花き卸売市場の戦略的な価値を高めたおかげで、すでに申し上げたように、この市場のシェアは60%に及んでいる。当然のことながら世界の市場の花きの価格がここで事実上、決まる。バレンタインデーのプレゼントは、日本ではチョコレートだが、欧米、とりわけ欧州では花を贈るのが習慣で、この数日前のアールスメール花き卸売市場の売買取引はケタ外れに多い、と市場関係者は語っていた。

日本国内では中部国際空港周辺に花き卸売市場創設の動きも


 さて、岐阜県内で年間200万鉢のミニバラ鉢植え生産販売を行いミニバラで日本でトップクラスの力を持つ岐阜県の有限会社セントラルローズ 代表取締役社長 大西隆さんは今、アールスメール市場に匹敵する花き市場を日本国内につくりアジア拠点市場化をめざしている。

 大西さんはかつて、花き生産の先進地、オランダの施設園芸を見学に行った際、衝撃を受けてミニバラを日本に導入し、うまく開花させた経営手腕の持ち主だが、今は愛知豊明花き地方卸売市場をアジア版の拠点市場にすればいいと考え、いろいろな仕掛けを行っている。マレーシアなどアジアの花き生産国にとっても、欧米市場向けに生産していた花きを、距離的に近い日本市場に出荷し第3国の売り先の道筋をつくってもらえれば大いにプラス。愛知豊明花き市場もアールスメール卸売市場に見習って、その集荷力によって、手数料を稼ぎ出すWIN/WINのビジネスになるかもしれない

 それだけでない。大西さんは、輸出への取り組みのために、5年前に愛知豊明花き市場や自社のセントラルローズなど生産者が加わって日本植物輸出協議会も発足させ、「攻めの日本農業」を本格化させるべく、頑張っている。その意味でも、拠点になる日本版国際花き卸売市場をぜひ実現させてほしいと考える。

(経済ジャーナリスト 牧野義司)