日 時:平成28年3月25日
場 所:JFセンター会議室
日本食文化のグローバルな定着を背景に中国、香港、台湾やASEAN(東南アジア諸国連合)からのインバウンド(訪日外国人旅行客)数が大きく伸び、しかもそれら外国人旅行客の日本食関心度が一段と高まっている。これを受けて、日本の外食企業の間ではビジネスチャンスを求めての海外展開がASEANを中心に、ますます活発化している。
海外での現地消費者ニーズに応えた品質の高い日本食メニューを確実に提供するためには、外食産業および日本の農業、食品産業などの関連産業が互いに連携を強めること、同時に外食産業の海外での店舗設計、現地オペレーションに精通した業務用厨房メーカーなど関連企業との協力連携をつくることなど多角的な取り組みが重要であることから、「JRO海外展開セミナー」という形でさまざまな先進事例に学ぶセミナーを新たに企画した。今後、JROとしては随時、海外展開をめざす外食及び関連企業向けサポートセミナーを開催していく。
その第1弾として、3月25日、外食および業務用厨房の先進事例に学ぶということで、「ハチバンラーメンの海外展開について」(株)ハチバン取締役執行役員の吉村由則氏に、また「海外における業務用厨房の果たす役割とは~外食産業の海外進出へのサポート体制などについて~」を、(株)マルゼン海外事業課主任の玉谷大介氏、および福島工業(株)アジア事業部副部長の島正人氏をゲストスピーカーにして、取り組み状況などをうかがった。
開催にあたり、主催者を代表しJROの大河原毅理事長が挨拶を行った。大河原理事長は「東南アジアに日本の外食産業が営業展開してみると、現地経営人材が十分でない、現地スタッフの人手不足に直面するといった経験、さらには陸続きの周辺国との関係を面的に見ていく必要など、いろいろな事態に直面して苦労する事例を聞くことが多い。そこで、JROとしては、今回、海外展開セミナーという形でハチバンラーメンの先進経営事例、またバックヤードの厨房設備の必要性などについて学ぶ場を設けることにした」と述べた。
JRO 大河原毅理事長
JRO 理事 渡辺恵一
(日本厨房工業会会長)
続いて、JROの渡辺恵一理事(一般社団法人日本厨房工業会会長)も挨拶に立ち「外食産業と厨房メーカーが連携する初めてのセミナーで、素晴らしい試みだと考える。海外で日本の外食産業が営業展開する際、安全安心な日本食の提供が最重要で、私たち厨房メーカーは衛生的な温度など品質の管理面で連携していきたい」と述べた。
このあと、ゲストスピーカーのスピーチに入った。
まず、ハチバン吉村氏は、「8番ラーメン」のブランドをもとに日本国内で現在、128のラーメン店の店舗展開を行っていること、海外進出は1990年に当時のハチバン経営トップがビジネスチャンスありと決断して2年後の1992年にタイに1号店を出店したのが最初で、今はタイに111店、香港のフードコートに7店を出店し、ハチバンの海外展開の中心はタイにあることを明らかにした。
このため、吉村氏は、日本の外食産業が海外で店舗展開される際の参考事例に、という形で、ハチバンのタイへの進出時に市場調査などをもとに現地の食文化に合ったラーメンの商品開発が重要であると考え、何にポイントを置いたかについて説明を頂いた。
それによると、タイでは1日5回の食事が慣習だが、1回あたりのボリュームが多くないこと、味の嗜好はあっさり味志向で、塩加減も少な目、逆に砂糖などの甘みが適度に必要、また香りにこだわりがあるため、日本のラーメン味とは異なることを知り、タイの食慣習から逸脱しないで日本の食文化をどのように打ち出すかという点に苦労した、という。
その現地調査を丹念に、しっかり食文化研究を行ったことが、「ハチバンラーメン」店をタイ国内でバンコクを中心に110店も店舗展開でき経営がうまく現地定着できている秘訣でないかと考えている、と述べた。
(株)ハチバン 取締役執行役員
吉村 由則 氏
また現地店舗経営面の課題として、吉村氏がいくつかの点を挙げた。具体的には現地事情に明るい信頼のおける現地パートナーをどう見つけるかが重要であること、店舗での食事代金の決済はタイでは食事テーブルでの決済であるのに対しハチバンは日本と同じレジ決済にこだわったところ、一部で抵抗があったが、今は100%レジ決済が定着しており、合理的な経営手法の場合、譲らずに日本型経営を貫くことが必要、また多店舗化に対応してセントラルキッチン方式を貫いたが、これも食の品質管理、安全管理面で重要で、日本の外食産業の強みになっており、方式導入は成功だったこと、厨房設備に関しては、日本メーカー品は品質安定、メインテナンスという点で優れており活用している半面、コスト高という経営面での悩みを持っていること、ただ、厨房の調理設備などに関しては、現地人件費コスト高に対応するため、今後はますます機械化が大きな流れとなること、とくに器材の自動化、操作単純化が必要である、という。
ただし、タイでの店舗経営の失敗事例としては、日本と同じような調理場に面して12席のカウンター・テーブルにしたら不人気で、やむなく2号店からは個別テーブル方式にしたこと、ざるラーメンやギョーザはタイの若い女性の間では人気商品ながら、冷やし中華のような商品は冷たいものはダメで、原則的に加熱したものが食事のベースにあることを再認識したことなどだという。
(株)マルゼン 海外事業課主任
玉谷 大介 氏
このあと、厨房設備メーカーの(株)マルゼンの玉谷氏にテーマが移った。
マルゼンの海外営業展開先としては台湾とタイに営業・設計・メインテナンスサービスの自前ネットワークを確保、またシンガポール、香港、フィリピン、マレーシア、そして米国ロスアンゼルス、ニューヨークには現地の厨房業者との連携による販売店網を持っている、という。
玉谷氏の話で興味深かったのは、アジア、とくに東南アジアのガス、電気、水、水質など厨房設備の導入と密接に関係するインフラ事情の話だった。それによると、ガスは、各国の事情に差があるものの、基本的にガス圧が強く、日本製のガス機器を接続する場合、低圧にするレギュレーター(減圧弁)が必要であること、また電圧は各国に差があり、それに対応するダウントランスが必要であること、水は水圧、水質が安定せず、現地対応が必要であることなどだった。
また、日本の外食産業がアジアなどに海外展開するにあたって、マルゼン製の厨房設備の導入事例をもとに、現地事情にからめて、ユーザー側であらかじめ理解しておいてほしいことをいくつか例示した。それによると、製造期間、船の輸送期間などリードタイム、通関などに時間がかかること、現地でガス器具を使用するにあたって各国の認証取得などが必要であること、香港とシンガポールでの都市ガスという場合、日本とは異なる発熱量のため、準備対応が必要であることなどだった。
最後に、福島工業の島氏は、香港での12年間にわたる海外での長い活動経験をもとに、主として、外食産業が海外展開するにあたって、経営リスクにどう対応するか事前にリスク調査などの準備が必要であること、現地進出後の経営形態としては、フランチャイズ方式か、現地企業などとの合弁経営か、あるいは100%外資としての進出などいろいろな形があり、その経営判断も事前にしっかりと調査して対応することが重要であること、また食材をどこから購入するか、現地の場合、現地のスーパーなどからの調達も選択肢であることなどを述べた。
福島工業㈱ アジア事業部副部長
島 正人 氏