特定非営利活動法人の日本食レストラン海外普及推進機構(JRO)は6月22日、平成28年度(2016年度)の通常総会を東京都港区の笹川記念館で開催した。
総会では、JROが平成19年(2007年)7月に設立されてから10年目という節目を迎えるのをきっかけに、国連ユネスコの無形文化遺産に登録された和食を軸に日本食文化を海外で一段と加速して普及拡大を図ること、それに合わせて日本の外食産業の海外展開や日本食材・食品の輸出促進をフルにサポートすること、平成32年(2020年)の東京オリンピック・パラリンピック開催に向け日本食を期待して訪日する外国人旅行者(インバウンド)への対応強化を図ること――などを盛り込んだ平成28年度の新事業計画、それに関連する収支予算を賛成多数で承認された。
まず総会冒頭の開会あいさつで、大河原毅理事長(株式会社ジェーシー・コムサ代表取締役CEO)は「JROが設立から今年で10年目を迎える。日本食材・食品などの関連業界と一体となって、日本食が海外で継続的に評価されるように取り組んでいきたい。とくにインバウンド、アウトバウンド(日本人の海外旅行客)双方を通じて、日本食をアピールするチャンスだ」と述べた。
続いて、JRO総会来賓としてあいさつに立った農林水産省の大角亨大臣官房審議官(兼食料産業局審議官)は、日本の農林水産物などの輸出総額が平成27年度(2015年度)で7000億円を超し日本政府の1兆円輸出目標を前倒しで達成可能な状況にあること、また海外展開する日本食レストランが同じく平成27年度現在で8万9000店にのぼることなど、勢いのある実績数字をみるとJROのみなさんの活動が大いにサポート要因になっているのは間違いないことで、政府としても心強く思っている、と述べた。
JRO大河原毅理事長
農林水産省 大角享大臣官房審議官
さらに、その際、大角氏は、農林水産省が今年度、海外における日本料理の調理技能の認定、また日本産食材サポーター店の認定に関するガイドラインを定め、民間のさまざまな自主的な取り組みを認定してバックアップ体制を整えると同時に、JROにその運用・管理団体になっていただき業務の遂行を期待したい、と述べた。
このあと総会は実質審議に入ったが、平成28年度のJRO新事業計画に関連して海外市場開拓委員会、情報・教育委員会、組織・企画委員会の取り組みの報告が行われた。
海外市場開拓委員会報告に関しては、新任の中野勘治委員長が日本の食材・食品の海外市場開拓に向けて、海外の日本食レストランでの需要品目の動向調査を行うと同時に、日本食材・食品の輸出促進を図る上での課題の摘出や解決に向けての情報交換、需要と供給のマッチングの開催、提言の策定などを行うと報告した。
その際、中野委員長は、今後、日本食需要の拡大が見込める成長センターのASEAN(東南アジア諸国連合)で日本産食材を活用した料理の試食会等を通じ日本産食材の魅力を積極的に伝えて行くシンポジウムを開催したい、と述べた。
また、情報・教育委員会の服部幸應委員長は、日本食および日本食材・食品の担い手である海外の日本食レストラン経営者のサポート、調理人のさらなる技術向上のサポートなどを通じて、日本食の魅力の継承に不可欠な人材の育成が重要であることを強調した。
そのため、服部委員長は、これまで取り組んできた日本食・日本食材に関心の高い外国の若手シェフやメディア関係者を招いての研修会開催をさらに強化すると同時に、中国の上海や武漢、台湾、バンコク、パリの調理学校と連携した日本料理調理講習会も実施する計画であることを明らかにした。
組織・企画委員会は、青井倫一委員長が欠席のため、加藤一隆JRO専務理事が代理で報告した。加藤氏は、JRO は、日本食・日本食文化の海外発信を強化するための取り組みとして、農林水産省が制定した海外における日本料理の調理技能の認定に関するガイドライン及び日本産食材のサボーター店の認定に関する運用・管理団体に応募し、農水省に承認されたことから、JROとしては、まずは運用・管理団体として、JROが有する海外の幅広いネットワークを活用し、「日本産食材のサボーター店の認定」や「海外日本食料理人調理技能認定」に参画し、こうした施策について、新たな提言を行いたいと考えております。また、更なる日本食市場の拡大に向け、日本食及び日本料理の調理技術のレベルアップ、日本産食材の普及・啓発を図り、引き続き各地域のレストランが参加しやすいJROならではの新たな枠組みについて検討を行いたい、と述べた。
満席となった会場
総会はすべての議案を満場一致で可決したあと、JRO総会記念講演会に切り替えた。米国での日本食レストラン展開で大きな実績を持ち、2010年に日本食の普及貢献部門で農林水産大臣賞を受賞したことのあるAFC CORPORATION代表取締役の石井龍二氏をゲストスピーカーに招いた。
石井氏は講演の中で、自身の取り組みに関して、25歳で訪米してカリフォルニア州立大学を卒業後、公認会計士事務所を立ち上げて企業財務会計の仕事にかかわったこと、しかし日本の寿司文化を米国で広げたいという強い夢を持ち、文字どおりアメリカン・ドリームを実現したいと一念発起して現在のAFC CORPORATIONを設立したこと、とくに食のグローサリースーパーでの寿司の実演と販売を兼ねたデモンストレーション・スタイルの寿司の普及が見事に成功、その後、テークアウトの寿司を全米のスーパーマーケットでフランチャイズ展開するビジネスモデルを確立、現在は全米50州に3300店、カナダ、オーストラリアの店を含めると3400店、従業員数が1万6000人にのぼる企業に成長したことなどを語った。
米国 AFC CORPORATION
代表取締役 石井龍二氏
この講演のフィナーレを飾る形で、石井氏は、自身の足跡をたどるビデオ映像を紹介した。この中で最近、米国の有名なスミソニアン博物館で開催された「アメリカン・オン・ザ・ムーブ」という産業界の優れた企業リーダー16人を称えるショーで、石井氏自身もノミネートされたこと、その際、石井氏は寿司をアート(芸術品)だというコンセプトでアピールし、それに見合って見栄えのするさまざまな寿司を展示紹介した、と語ったが、その美しい寿司の映像はJRO総会に参加した人たちを魅了した
総会の締めくくりとしてJRO島村宜伸会長による講演・メッセージ
この石井氏に続いて、記念講演会の締めくくり役の形で登壇した島村宜伸JRO会長(元農林水産大臣)は「海外で、今や日本の食文化がユネスコの無形文化遺産に登録されたばかりか、ミラノ万博で高い評価を得た。日本の食を担う方々が海外で多くの困難を克服して、日本食文化を普及・定着に取り組んでいただいているおかげだ。中でも、今回の石井さんの記念講演をお聞きしていて『寿司は芸術だ』というメッセージには感動すると同時に、素晴らしい示唆を得た。JROの活動はこれからが大事だが、この示唆をもとに、さらにがんばっていきたい」と語った。
このあと、JRO関係者による総会後の恒例の懇親会に移った。JRO会員企業を中心に農林水産省など行政関係者、また食材の担い手である農業法人協会関係者など多数の関係者がJRO10年の節目の新たな年に向けて、交流を深めた。
JF菊地唯夫会長によるスピーチ
この懇親会で、JF(一般社団法人日本フードサービス協会)の菊地唯夫会長(ロイヤルホールディングス株式会社代表取締役会長兼CEO)があいさつに立ち、この中で興味深い指摘を行った。菊地会長は「2019年のラグビーワールドカップの日本開催、さらに翌年2020年には東京オリンピック・パラリンピック開催と、国際的なビッグイベントが相次ぎ、日本にとっては経済再生を含めて、いろいろなチャンスとなる。ところが、先日、ある場所で『日本はオリンピック・パラリンピックのあとの2021年以降は大丈夫か』と心配された。
その心配というのは、インフラ投資などを行いすぎて反動が出てくるのではないか、というものだったが、私は、その際、日本のオリンピック・パラリンピックは新興国型のものとは異なり、どちらかといえば、英国ロンドン大会の成熟国型のものに近く、大会運営はじめ様々なことに関して、ロンドン大会から学ぶことが多い。日本は、その意味で、英国の成功体験に学ぶべきだと考える」と述べた。
菊地会長によると、あるシンクタンクによるとオリンピックの経済効果7兆円のうち、開催前が2.1兆円で開催後が4.8兆円であった、との調査がある。端的にはヒトの交流や観光、モノの消費、それらによって経済にプラス効果が働いている、と聞く。東京オリンピック・パラリンピックも英国ロンドンと同様、成熟国家の大会づくりに向けてのチャレンジが必要だ、それらの大会運営を学習していくべきだと考える。その意味でも日本の食文化を大会のさまざまな場でアピールする絶好のチャンスだ、という。
最後に締めくくりのあいさつとして、公益社団法人・日本農業法人協会 藤岡茂憲会長(秋田県・有限会社藤岡農産代表取締役)が「石の上にも10年という言葉があるが、その言葉を転用させていただけば、JROが10年目を迎えるにあたり『食の上にも10年』で、これからがJROの新たな出発にもなる重要な年だ。農と食の連携は極めて重要で、われわれ農業者も食材提供の形でバックアップしていくので、ますます連携体制をつくっていこう」と語り、多くの人たちの賛同を得た。
懇親会では会員企業による多数の協賛・食材を活用したメニューが提供