ヤンゴン国際シンポジウム レポート No.2

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ミャンマーレストラン協会、JFやJROとの交流成果を絶賛

日本から学んだセントラルキッチン方式などで品質管理が向上


ミャンマーレストラン協会(MRA)の外食企業関係者は、今回のミャンマー・ヤンゴンでの国際シンポジウムなどの場で、2013年、2014年の2度にわたり日本を訪問して外食レストラン研修の場で学んだ日本のセントラルキッチンシステムはじめ、品質管理や衛生管理、それらを含めたマネージメントの全体手法が現在、ミャンマーのいろいろなレストランの現場で着実に生き、大きな質の改善や向上につながったこと、日本フードサービス協会(JF)や特定非営利活動法人(NPO)日本食レストラン海外普及推進機構(JRO)が窓口になって、これら民間ベースでの食文化交流の場を作り出してもらったことはミャンマーにとって筆舌に尽くしがたいものがある、と口をそろえて絶賛した。

ミャンマーはASEAN(東南アジア諸国連合)10か国の中で後発の国として、2011年の民政移管後、国をあげて大急ぎで経済発展の実現に取り組んでいる。MRAも国民の新ライフスタイル願望の高まりを受けて、ミャンマーの食文化を豊かなものにするため、必死で取り組んでいる。しかしMRA加盟企業にとっては、レストランの運営システムやノウハウに習熟する時間的な余裕がなかったのが現実だ。

ミャンマー外食団体が日本という国を限定しての研修感謝表明は異例


そういった中で、JFやJROが手を差しのべてくれた民間ベースでの食文化交流の提案、さらにレストランの品質管理システムに関する研修の場の提供は、MRAにとっては文字どおり、干天に慈雨だったのかもしれない。それにしても、ある国の外食関係の大きな団体が、日本という国を明示して、これほどまでに「日本からの学習」の成果、それに民間ベースでの食文化交流の取組みに絶大な評価を加えてくれたのは異例といっていい。

そのMRAの気持ちの表われが、ヤンゴンでのJRO、MRA共催の国際シンポジウムへの積極参加、そのシンポジウム前後の間に、日本からのシンポジウム参加者の外食企業、食品流通企業、食品加工メーカーの人たちをさまざまなレストランの現場に案内して、日本研修結果がどこまで実を結んでいるか、ぜひ見てほしいと積極要請すると同時に、MRA会員企業レストランにJROの研修ツアー企業関係者を招待し、それぞれ自前のミャンマー料理でおもてなし歓待もする、という、JRO側にとっては、うれしい結果となった。

家庭料理レストラン経営のチェーリーさん「3つのセントラル化が役立った」


そこで、MRAのレストラン経営者らが、日本から、どういった点を学習し、自身の現場経営に生かして成功したか、具体的な事例をレポートしよう。

チェーリーさんは、1995年に、女性経営者のセンスを生かしてミャンマーの家庭料理を振る舞うレストランを創業した。顧客の健康を意識して食材の選択にも細心の注意を払いながら、ミャンマーの家庭料理の幅を一気に広げるクオリティーの高いさまざまなメニュー展開がセールスポイントだ。しかも開放的なオープンスタイルの店で、女性らしい気遣いの調度品も置かれて、食事を運んでもてなす女性の顧客サービスも行き届いており、ヤンゴンでも人気が高い、という。ヤンゴン以外にミャンマー国内のマンダレー、ベガンにも店舗を広げている。

JROの研修ツアーの日本企業関係者を招き入れた昼食の宴のスピーチで、チェーリーさんは「私は、JROのみなさんのアレンジで2013年に日本を訪問し、セントラルキッチンのシステムを含めて、3つの『セントラルシステム』を学んだ。それが今、私のレストランの経営にとても役立っている。日本のレストラン経営のシステムは本当に素晴らしい。いろいろ教えていただいたことに感謝している」と述べた。

「キッチン、アカウント、マネージメントの3つの集中化で管理も容易に」


チェーリーさんが挙げた3つの「セントラルシステム」とは、セントラルキッチン、セントラルアカウント、セントラルマネージメントだ。
このうち、セントラルキッチンは、一般的にはチェーン化した店舗に味が均一あるいは同質の食べ物を届けて、あとは現場で温めるだけにして顧客満足度を高めるようにするため、一か所の調理センターで食材を集中的に調理加工する合理的なシステムだが、チェーリーさんはスピーチで、国内の姉妹店に届けるさまざまなメニューの料理を本店のセントラルキッチンで行っているやり方なのかなどについて、具体的な言及をしなかった。

しかしチェーリーさんは「日本での研修や学習の成果は、キッチンにしろ、アカウント(財務経理)にしろ、(人事など)マネージメントにしろ、1つの所で集中的に管理していくことのメリットの大きさだ。あらゆるシステムを一本化することで、料理の品質管理もしっかりとできるし、また何か問題が生じた場合の危機管理対応の早さも、すべてが可能になるということだ。日本からミャンマーに帰国してから、経営者として、すぐに導入し、現場経営に大いに活用した。その成果は大きく出てきており、日本には本当に感謝している」と述べた。

レストラン、宅配弁当経営のモーさんも日本のセントラルキッチンを導入


また、JROの研修ツアーチームがMRA会員企業の現場を見学した中で、日本のセントラルキッチンシステムを積極的に導入して成功しているKHAING KHAING KYAW(KKK)グループの経営者、KYAW MYAT MOE(ミャット・モー)さんも今回、取り上げたい1人だ。

ミャット・モーさんは、MRAの事務局長も務める重要人物で、JROが2012年にバンコクで開催した国際シンポジウムにミャンマーから積極参加、さらにJROが2013年にMRA加入のレストラン経営者を日本に招いた調理研修にも参加、中でもこの日本研修でセントラルキッチンのシステムの経営価値をいち早く見抜き、チェーリーさんと同様、帰国後に直ちに導入した。

ミャット・モーさんはヤンゴン市内でレストランを経営するほか、ビジネスオフィスや家庭に弁当を毎日、20台の軽自動車で宅配のビジネスを展開している。そこで、JROの研修ツアーチームは、ミャット・モーさんが宅配弁当に積極導入しているセントラルキッチンの現場を見学した。

モーさん「ビジネスの本格化にはまだまだ日本からシステムを学びたい」


日本の弁当タイプのものと違って、金属製の缶のようなものに副食のおかず類を入れ、3段ないし4段重ねにして顧客に届ける弁当宅配のシステムだが、見学した調理現場のセントラルキッチンではさまざまな種類の食材を集中的につくり、それらを弁当用の金属製の缶に詰めていくやり方をとっていた。

ミャット・モーさんは「1日700食を調理して弁当を顧客に宅配するビジネスモデルは、日本での研修でヒントを得た。食材に関しては、調味料を含めて健康にやさしい自然のものを使うように努め、日本で学んだ衛生管理や品質管理を徹底するようにしている。ただ、現実問題として、ビジネスを本格化していくには、まだまだ日本から学ばねばならないものが多い」と語っている。

このほか、JRO研修チームはミャンマー滞在中、ヤンゴンで数多くのレストラン経営などの現場を見学したあと、MRA副会長のNAY LIN(ネイ・リン)さんが経営するSEINN LANN SO PLAY GARDENというガーデンレストランに招かれて軽い食事をした際、同席したMRA幹部の人たちを交えて、ミャンマーと日本の食文化の融合、日本のレストラン関係者らから見たミャンマーのレストラン経営へのコメントなど、率直な形で意見交換を行った。

この場で、MRA側から、2013年にミャンマーがASEAN10か国のスポーツ大会、SEA(東南アジア) GAMEを首都ネピドーで開催した際、JFやJROから大会会場の選手村の選手や大会関係者などの食事をまかなえるようにと、大型の冷蔵庫、フリーザーなどの機器、さらに食材として、9万個の冷凍ギョウザはじめラーメン、さらにしょう油、みそなどの調味料、パン粉を支援物資の形で大量に提供してもらったことが大会運営の大きな支えになった、とお礼もあった。

JRO関係者によると、9万人分の冷凍ギョウザに関しては、タイのバンコクで当時、味の素株式会社はじめ主だった企業が特別に加工調理しミャンマーへ送った。ミャンマー国内で、9万人分の冷凍ギョウザをつくる生産設備がないため、当時はバンコクから輸送したが、ミャンマー政府、MRAからはすごく感謝された、という。

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寄稿者:牧野 義司 氏(経済ジャーナリスト、メディアオフィス「時代刺激人」代表)